メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

テロメア維持の機構:(3)ATRXの働き

(前回から続く) テロメアではG4が形成される G-quadruplex(G4)というのは4個のグアニン塩基が同一平面上に配置した構造。ふつう二本鎖DNAが形成されるときに働くのはワトソン・クリック型塩基対だが、G4の場合はフーグスティーン型塩基対(Hoogsteen bas…

マイク・ホンダの引退

2,016年は各国で政治が動いた年だ。大統領選挙に加えて上下両院議員の選挙も行われた。 最近のサイエンス誌にマイク・ホンダの議会からの引退が報じられている。ホンダは日本ではいわゆる従軍慰安婦問題で日本を糾弾する急先鋒として知られているが、ここで…

テロメア維持の機構:(2)ATRXの失活がALTを引き起こす

(前回からの続き) ALT細胞はATRXまたはDAXX遺伝子の変異を持つ ALTを抑制している遺伝子は何か? この疑問に対するヒントは膵神経内分泌腫瘍(PanNET)という稀な腫瘍の解析から得られた。ジョンズ・ホプキンス大学のグループはPanNETではATRXまたはDAXXの…

テロメア維持の機構:(1)ALT

大部分のがん細胞の無限増殖能はテロメラーゼの”再”活性化による がんで認められるテロメア維持の機構(temoere maintenance mechanisms,TMM)が確定したようなのでまとめたい。 テロメア維持といっても大部分のがんではテロメラーゼ(telomearse)の”再活性…

"How to win the Nobel Prize"

Peter Doherty博士がノーベル医学生理学賞(1,996年)を受けて20周年に当たる本年、ノーベル週間に合わせてシンポジウムが昨日(12/9)開催された。 Doherty博士のノーベル賞とは、"for their discoveries concerning the specificity of the cell mediated …

感染症が遺伝子頻度の変化(=進化?)を起こす

近年の種絶滅の原因として感染症が重要であることを何度か書いてきた。隔離された集団に初めてある病原体が流行すると免疫がないために簡単に個体数が激減する。これはヒト集団でも同様で、その例として北米原住民が欧州の病原体と接触した際の人口の激減に…

D・トランプ時期大統領と文豪S・フィッツジェラルド

表題のD・トランプ時期大統領と文豪S・フィッツジェラルドとはほぼ何の関係もないことを最初にお断りしておく。 トランプの勝利を”負け犬の逆転劇”と捉える記事とするを読んで、自ら実感したことを書こうと思った。記事では米国社会の”負け犬(underdogs)”…

医学史に残るC型肝炎研究

C型肝炎の治療法の開発が進んでいる。最近のCellに、"Pioneering a Global Cure for Chronic Hepatitis C Virus Infection"と題する小文が出ている。 C型肝炎は急性肝炎(ほとんど無症状)を経て、最終的にESLD(end-stage liver disease)となる。この間の…

ミツバチのカースト制はエピジェネティックに決められる?

少し前にエピジェネティクスとは何かと書いたが、今回の話は同じゲノムDNAを持った動物個体がなぜ異なる社会的役割を果たすようになるか?ということだ。この仕事自体は4年も前に公表されたものだが、この大問題の攻略法する上での大きなステップだが、さら…

環状RNAの衝撃

もう三週間前のことになるが、Pier Paolo Pandolfi(Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Stem Cell Institute, Boston)の話を聴いた(10/28)。内容は衝撃的で、まさに未開の荒野を突き進むといった話だった。中身を一言でまとめると、”細胞内…

新大統領のもとでの科学政策は?

ドナルド・トランプの当選により彼が時期大統領になることが決まった。大統領選の勝敗は敗者の”敗北宣言(concession speech)”によって決定されることになっているので、これは最終的な結果である。これで多くの分野の政策が変更されるであろう。科学政策も…

”酵母は理想的なモデル生物”か?

大隅良典教授が安倍晋三首相と面会した際にオートファジーをデザインしたラベルのついた日本酒を贈ったことがニュースとなっている。このデザインはとてもセンスが良い。 大隅は”酵母は理想的なモデル生物”と述べている。これは本当だろうか? この問題を議…

鳥インフルエンザ、核軍縮

”鳥インフルエンザ、核軍縮”とは何だ?と思われるかもしれないが、最近のサイエンスに出た紹介記事から北極圏の重要性に思い至ったので書いてみる。キーワードは北極。 この記事では家禽の強毒A型インフルエンザ(H5N8)の流行の世界的拡大に対するFAOの見解…

サラセミアの克服に向けて:Stuart Orkinの挑戦

9月30日、Dana Farber Cancer Institute(Boston, MA)のStuart Orkinの講演を聴いた。(モタモタしている間に一ヶ月ほど経ってしまった。その間シンポジウム、小旅行、シン・ゴジラとかいろいろあった。)Orkinは血液学の大家だ。今回の講演は、サラセミア…

酵母をめぐる冒険

最近のCellに、"Domestication and Divergence of Sacharomyces cerevisiae Beer Yeats"という論文が出た。直訳すると”ビール酵母Sacharomyces cerevisiaeの家畜化と多様性”だが、要するに世界の発酵産業で用いられている酵母の多数の菌株のゲノム配列を解析…

ZIKAウイルスの病原性を担う低分子RNA、sfRNA

今日はコロラド大学(University of Colorado)のJefferey Kieftという人の講演を聴いた。構造生物学は苦手なので初めは気が進まなかったが実際は面白い話だった。 トピックはフラビウイルス属のRNAが病原性を発揮するのに必要な構造を明らかにしたという話…

トウモロコシを持ち出そうとして有罪判決を受けた中国人研究者

サイエンス最新号に"Chinese scientist jailed over theft of hybrid corn"と題する記事が出ている。この事件に関して、いくつかの観点から論じてみたい。 ことの成り行きを要約すると以下のようになる。 中国人のバイオ研究者が米国企業で開発されたハイブ…

マストドンサイト

ミズーリ州セントルイス南郊の丘陵地にマストドンサイトがある。この一帯は19世紀初めころからマストドンを初めとする様々な絶滅動物の骨が発見された場所だ。アメリカマストドン(Mammut americanum)は北中米に生息していた 長鼻目の動物、要するにゾウの…

がんを巡るエピジェネティクス

先週私のいる病院で開催されたシンポジウムのテーマがEpigeneticsであった。 エピジェネティクスは生命科学の中心にある エピジェネティクスというのはたいへん大きな領域だ。そもそもDNAレベルのマーキング、ヒストンレベルのマーキング、それに非コードRNA…

健常ヒト胎児のゲノムエディティング

ノーベル賞のお膝元のスウェーデン、カロリンスカ研究所発のニュースが二つ。両方とも良くない方のニュースに分類されるかとも思うが(?)、それぞれの”予後”は相当異なる。 最初のニュースはノーベル医学生理学賞の選考委員会のあるカロリンスカ研究所(KI…

Alfred Knudsonの訃報

来週はノーベル賞受賞者が公表されるが、ノーベル賞の有力候補と思われていた(少なくとも私はそう思っていた)Alfred Knudsonが死去した(注1)。その訃報にふれて感慨を禁じ得ない(注2)。Knudsonはいわゆる"Two-hit theory"を初めて唱えた人物。この理…

Chopin’s Heart in the Genomic Era

この文章は既に日本語で公開しているが、英語版も作っていたので載せることにする。 I wrote this piece in 2,008 without uploading it till last year. Its Japanese version was uploaded in November, 2,015. At that time, the situation surrounding t…

G7保健相会合と中国の耐性菌対策

これを書いていた9月11日は米同時多発テロの15周年だった。TVでは記念(祈念?)式典が続いていた。15年前のこの日のことはいまだによく覚えていて私も考えるところはあるが、守備範囲を超えているのでここで話題にすることは避ける。 日本発のニュースではG…

木目パターンでヴァイオリンの贋作がわかる

年輪年代学とは何か? まずは最近の話題から。紀元6世紀頃に小寒波(Late Antique Little Ice Age (LALIA))があった。これは火山の巨大噴火によるものと考えられている。それが飢饉、人の移動(この時代はゲルマン民族大移動の最中だったが)、さらにはペス…

GM作物の百年後?

GM(遺伝子組換え)作物が100年後にどうなっていると問いかけることで始まる短い記事がNatureに出た。著者はKing's College, Londonの客員教授のVivian Moses。ここには以下のようなことが書いてある。 この問いに対する答えは二通りある。一つはGM作物があ…

キリンは4種

前に”北米のオオカミは1種のみ”という記事を書いた。最近よく見られることに、ゲノムシークエンスの結果、種の記載が訂正される。その結果、絶滅危惧種への対策が変更されるという事態があるという趣旨で書いた。関連する話としては”オランウータンの話”も参…

"Phenotypic profiling"とは?(1)Functional genomics

スクリーニング(Screening)とプロファイリング(Profiling)とはどう違うのか? プロファイリングの応用可能性について認識していきたい。 いわゆるHigh-throughput screening(HTS)はDrug discoveryにおいて盛んに利用され、その範囲は拡大し続けている…

スリランカのマラリア根絶から(少し)考える

9月5日、WHOはスリランカにおけるマラリアの根絶を宣言した。これは現地でのマラリアの感染が3年間記録されなければ宣言が出される。(患者が移入されただけのケースは除外される。) スリランカでマラリアが根絶されたというグッドニュースが出た。 (WHO、…

伝染性腫瘍(3)デビルの抵抗性遺伝子が選択される

(前回からの続きにして完結編) 今年の初めにコッホ三原則の見直しの動きについて紹介した。そこで述べた通り、コッホ三原則とは微生物と病気の因果関係を確定するための実験のプロトコールだ。同じ記事で私はがん遺伝子研究にでもコッホ三原則のアナロジー…

若い人の血による若返り効果?

ちょっとこのタイトルは怪しげだが、このサイエンスの記事はおもしろい。遺伝子工学でも幹細胞でもないが、俗な面白さがある。若い人の血漿を輸血された人が”若返る(かもしれない)”というのだ。 記事を読んでみると、この流れの研究には結構な歴史があるこ…