メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

同じ生データからNatureとCellに出す:ペスト菌の考古学

研究者にとって少し扇情的なタイトルだが先週Cellに出た論文のことである。 タイトルは “Early divergent strains of Yersinia pestis in Eurasia, 5,000 years ago” (紀元前5,000年のユーラシア大陸 で見られるペスト菌の 多様性“である。 この論文の内容…

効力の低いデング熱ワクチンが有望視されている

最近効果の低いワクチンが有望視されている。そのひとつはデング熱ウイルスに対する組み換え方弱毒生ワクチンである。 私の同僚が親族の結婚式のためインドに一時帰国するという。米国−インドの往復は米国−東アジアよりもさらに長時間の旅であり、本人はそれ…

幹細胞の非対称分裂の機構は?

“ヒストンのリン酸化が幹細胞の非対称分裂を決定する“という論文がCellに出た。 幹細胞の細胞分裂は非対称分裂である。その意味するところは、分裂の結果未分化な幹細胞そのものと、組織特異的な分化にコミットされた細胞を一つづつ生み出すのだ。この仕組み…

ニューヨークの住人10,000人からデータを集める:研究プロセスのパラダイムシフト

ビッグデータの時代である。 最近のサイエンス誌にニューヨークに住む2,500世帯、計10,000人のデータを20年にわたって収集するというプロジェクトの計画に関する記事が出た。 このプロジェクトのポイントはただ単にゲノムDNAの配列を収集するだけでなく、そ…

高リスク神経芽腫ではゲノム再構成によってテロメラーゼが活性化されている

最近のNatureに表題のような論文がドイツのケルン大学を中心とするグループから出された。著者総数55名からわかるとおり、ゲノムシークエンシングを主な手段とした仕事である。神経芽腫(neuroblastoma)のゲノム異常を探索した結果、高リスク神経芽腫では第…

ゲノム時代の”ショパンの心臓”【2】

(前回からの続き) その後このショパンの心臓の話を聞くこともなかったが、昨年の今頃複数の欧米メディアにこの話が出てきた [1, 2]。 それによるとポーランドの遺伝学者と法医学者たちが討論会を持った。その結果件のジャーから心臓を取り出して検分する“…

ゲノム時代の”ショパンの心臓”【1】

だいぶ前のことになるが、“ショパンの心臓”と題された下のような短い記事がサイエンス誌に掲載された。 フレデリック・ショパンは1,849年にフランスで39歳で死んだ。死因は肺と喉頭の結核とされている。ショパンの心臓は、友人の医師の手によって取り出され…

オランウータンの話

オランウータンは動物園の人気者である。動作を見ていると実に人間臭い。 この種が絶滅危惧種として認識されて久しい。現在の総個体数は約50,000頭でこの100年間に80%減少したという。存続が危ぶまれている最大の理由は、熱帯雨林で樹上生活をしていること…

小型条虫の細胞がヒト体内で“がん”を作る!

何とも不可思議なタイトルであるが今週号のNew England Journal of Medicineに発表された論文である(Malignant Transformation of Hymenolepis nana in a Human Host)。 HIV感染のあるコロンビア人男性の肺その他の臓器に腫瘍状の塊があるのが見つかり、バ…