メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

2019-01-01から1年間の記事一覧

2019 Biomedical Symposium: Germline Predisposition to Cancer

今年のSt. Judeシンポジウムは"Germline Predisposition to Cancer"のテーマで先週金曜日にあった。 Predispoditionとは日本語にしにくい言葉だが、親から受け継いだがん関連遺伝子の変異が、特定の腫瘍の発症頻度を高めかつ発症時期を早めるということだ。 …

大著 "Origins" を読む

長い時間を費やしてようやく”Origins: How the Earth Made Us"を読了した。これはLewis Dartnellという人物によって著された本だ。Natureの書評に取り上げられていて、面白そうだったので購入した。 "Origins(起源)"とは、ダーウィンの”種の起源”を連想さ…

ジーン・ドライブは世界を救うか?(続き)

(前回からの続き) Nature誌のgene-driveに関する5つの以下の疑問とそれらへの答えをみていこう。 1.そもそもGene driveは有効に働くのか? Gene driveによって有害昆虫を撲滅(または無害化)するということは生態系に対する挑戦である。野外では人の作…

ジーン・ドライブは世界を救うか?

もう4年も前になるが、gene drive(ジーン・ドライブ)という技術に関する記事を挙げておいた。最近のNature誌にこのgene driveのその後の展開に関する記事が載ったので紹介したい。 最初にこの技術について原理をを簡単に要約する。 CRSPR/Cas9によるゲノ…

デニソヴァ人:アミノ酸配列を手掛かりにする

Paleoproteomics(古タンパク学?)の話。 進化という現象に多少の興味があるのでこのブログでも進化関する記事は比較的多く書いてきた。 これまで私が書いた題材の中で最も印象的だったのは、Svante Pääboらによる”ネアンデルタール人のゲノム配列の決定”と…

生物多様性の話題(2):新種探索のコンソーシアム

現在は第6大絶滅の真っ最中である。人類が”生物は絶滅する”ことを発見してから僅か200年余り、この絶滅の勢いは人類が絶滅する以外止めるすべはおそらくない。毎年多くの種が新たに発見されてるが、それを上回る数の生物種が絶滅している。 DNA塩基配列に基…

生物多様性の話題(1):シカゴのフィールドミュージアム

先週シカゴに滞在した際、かねて行きたいと思っていたフィールドミュージアム(Field Museum of Natural History)を訪れた。米国最大級の博物館だ(注)。ミシガン湖に面したシカゴダウンタウンの最南端を固めるように立地している。その巨大なギリシャ・ロ…

平成の終りを飾る上野千鶴子の”祝辞”

あまりにも多くの人々が論評している例の件だ。私が一万キロ東から常々感じていたことを書いてみる。(但し、私は政治学者でもなく、社会学者でもないので、かなり変なことを書いてしまうかもしれない。) このブログのテーマである”主に生命科学と社会を考…

ワクチンが効くのは何年?

これはとてもは大事なことだが、あまりホントのことは知らされていない(注)。 Scienceサイトの4月18日付のニュース記事にこれに対する答えが書いてある。公開記事なので、興味のある方は読まれると良い。 結論を言うと細菌毒素の3種混合、これは破傷風、…

"Reverse global vaccine dissent"

Science誌最新号の巻頭言のタイトルである。”反ワクチン主義を押し戻せ”とでも訳せるか。著者はHeidi LarsonとWilliam Schultz。ともにLondon School of Hygiene and Tropical Medicineの所属で、前者は教授、後者は大学院生。 以下、私なりの翻訳(要約、意…

ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」

日刊工業新聞のサイトに”ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」を導き出したAIの貢献度”という短い記事が出ている。あまりに短いのでこの住友化学の試みがどのようなものかは今ひとつ定かではない。 先に昨年11月にScience誌に出された同号に出た研究論文の紹介記事を挙…

サンタ・アニタ競馬場、ナカタニ騎手

競馬好きの人には馴染みのある名前だと思うが、サンタ・アニタ(Santa Anita Park)はロサンゼルス近郊にある名門競馬場だ。 3月29日のScience誌のニュース欄に"Wave of horse deaths on famed racetrack poses puzzle"という記事が出た。”名門校競馬場での…

シドニー・ブレンナーのこと

シドニー・ブレンナー(Sydney Brenner, 1,927-2,019)が亡くなった。 シドニー・ブレンナーと会ったのは1,996年のこと。当時私は東京の大学に勤務していたが、ブレンナーがカリフォルニア(サン・ディエゴ)に新しい研究所を作ったと聞いて、手紙を書いたの…

感染を促進する抗体の正体

これに関連する記事は二年前にも書いた。 ジカ熱流行の衝撃 ここ数年世界で問題となった感染症に、エボラ出血熱とジカ熱がある。エボラの場合、感染力、致死性が共にきわめて高く、流行を封じ込めることの重要性に議論の余地はない。一方、ジカ熱自体は致死…

免疫チェックポイント療法の影

本ブログでも以前紹介したが、免疫チェックポイント療法の影の部分について議論が活発化している。これはScience誌のニュースに掲載されたもの。 免疫チェックポイント療法は既に一般に広く知られている。無論これには2,018年の本庶佑のノーベル医学・生理学…