メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

免疫チェックポイント療法の影

本ブログでも以前紹介したが、免疫チェックポイント療法の影の部分について議論が活発化している。これはScience誌のニュースに掲載されたもの。

免疫チェックポイント療法は既に一般に広く知られている。無論これには2,018年の本庶佑のノーベル医学・生理学賞の受賞によるところが大きい。免疫チェックポイント療法は第四のがん治療法(他は外科手術、放射線、化学療法)であり、特定の種類の腫瘍に対して著効を示すことが明らかとなってる。一方その副作用(自己免疫様症状)は重篤であり、一部で死に至るケースも報告されている。しかしこれまでの治療法が基本的には患者を延命させるのとどまるのに対して、免疫チェックポイント療法ではがんを完全に治癒するようになっている。

おそらく現時点での最大の問題点は、なぜ同じ種類の腫瘍でも患者によって治療効果が著しく異なるのか、ということだと思う。この点に関する世界の研究競争には凄まじいものがあるが。ここ数年以内に治療結果に影響を与える主だった要因が解明されると予想される。

さて、今回のScience誌のニュースではPD-1抗体治療によって、腫瘍が縮小・消失するどころか、逆に腫瘍増殖が増大するケースに関する議論が取り上げられている。こうした症例は、個々の医療施設では各々少数例であり、今のところPD-1抗体が本当に腫瘍の増悪を引き起こしいるどうかは不明である。しかし前回の紹介記事でも述べたように、こうした症例ではMDM2あるいはMDM4遺伝子コピー数の増加、またはEGFR遺伝子の変異が共通して見られるという。

こうしたPD-1抗体によるとみられる腫瘍の増悪の実態は未だはっきりと把握されておらず、医師・研究者の間でも見解が別れている。この状況を打開するために、現在アトランタで開催されている米国がん学会(AACR)でこの問題が議論されることになっている。この議論を主導するのは米国食品医薬品局(FDA)と国立がん研究所(NCI)である。

 

追記 2,019年 7月30日

中村祐輔ブログによると、日本でもこの問題が盛んに議論され始めたようだ。