メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

サラセミアの克服に向けて:Stuart Orkinの挑戦

9月30日、Dana Farber Cancer Institute(Boston, MA)のStuart Orkinの講演を聴いた。(モタモタしている間に一ヶ月ほど経ってしまった。その間シンポジウム、小旅行、シン・ゴジラとかいろいろあった。)Orkinは血液学の大家だ。今回の講演は、サラセミア…

酵母をめぐる冒険

最近のCellに、"Domestication and Divergence of Sacharomyces cerevisiae Beer Yeats"という論文が出た。直訳すると”ビール酵母Sacharomyces cerevisiaeの家畜化と多様性”だが、要するに世界の発酵産業で用いられている酵母の多数の菌株のゲノム配列を解析…

ZIKAウイルスの病原性を担う低分子RNA、sfRNA

今日はコロラド大学(University of Colorado)のJefferey Kieftという人の講演を聴いた。構造生物学は苦手なので初めは気が進まなかったが実際は面白い話だった。 トピックはフラビウイルス属のRNAが病原性を発揮するのに必要な構造を明らかにしたという話…

トウモロコシを持ち出そうとして有罪判決を受けた中国人研究者

サイエンス最新号に"Chinese scientist jailed over theft of hybrid corn"と題する記事が出ている。この事件に関して、いくつかの観点から論じてみたい。 ことの成り行きを要約すると以下のようになる。 中国人のバイオ研究者が米国企業で開発されたハイブ…

マストドンサイト

ミズーリ州セントルイス南郊の丘陵地にマストドンサイトがある。この一帯は19世紀初めころからマストドンを初めとする様々な絶滅動物の骨が発見された場所だ。アメリカマストドン(Mammut americanum)は北中米に生息していた 長鼻目の動物、要するにゾウの…

がんを巡るエピジェネティクス

先週私のいる病院で開催されたシンポジウムのテーマがEpigeneticsであった。 エピジェネティクスは生命科学の中心にある エピジェネティクスというのはたいへん大きな領域だ。そもそもDNAレベルのマーキング、ヒストンレベルのマーキング、それに非コードRNA…

健常ヒト胎児のゲノムエディティング

ノーベル賞のお膝元のスウェーデン、カロリンスカ研究所発のニュースが二つ。両方とも良くない方のニュースに分類されるかとも思うが(?)、それぞれの”予後”は相当異なる。 最初のニュースはノーベル医学生理学賞の選考委員会のあるカロリンスカ研究所(KI…

Alfred Knudsonの訃報

来週はノーベル賞受賞者が公表されるが、ノーベル賞の有力候補と思われていた(少なくとも私はそう思っていた)Alfred Knudsonが死去した(注1)。その訃報にふれて感慨を禁じ得ない(注2)。Knudsonはいわゆる"Two-hit theory"を初めて唱えた人物。この理…