メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

免疫チェックポイント療法ががんを増悪させるケース

最新号ネイチャーに抗PD−1療法ががんの進行を速めるケースのあることが紹介されている。これでは最近Clinical Caner Researchに発表された二つの論文の内容が述べられる[1, 2]。

免疫チェックポイント療法は全体の20%程の患者に対して著効を示し、がんを"治癒させる”療法として確立した感がある。しかし最近になって、逆に抗PD−1治療によってがんの進行が速まるような患者が見出されたというのだ。

フランスのグループの報告では、131例患者中12例(9%)にhyperprogressive disease(HPD)が認められた。HPDは65歳以上で有意に高く出現した。

もう一つのUC San Diegoのグループの報告では、MDM2やMDM4遺伝子のコピー数の増加がこの抗PD−1療法によるがんの増悪と相関があるという結果が出た。このグループの報告では高齢患者に特別高い頻度は見出されなかった。

これまで免疫チェックポイント療法に関しては、”効く”か”効かない”のいずれかと思われていた。だから特定の患者にとっては、文字通り”夢の薬”だったのだ。しかしこれが患者によってはむしろ逆効果であることがわかってきたわけで、こうなると話は全く違う。

免疫チェックポイント療法に関しては、その著効のために誰もが投薬を望むような状況が生まれつつあった。しかし今回の報告によりこうしたブームはひとまず沈静化してゆくものと思われる。我が国ではこの薬のせいで国民健康保険が破綻するとまで言われていたが、それも回避できそうだ。

より本質的な問題は、一体どのような性質のがんに対して効き、逆にどのような性質のがんではそれを悪化させるのかということだ。これらは精力的な研究によって明らかにされなければならない。