メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

サンタ・アニタ競馬場、ナカタニ騎手

競馬好きの人には馴染みのある名前だと思うが、サンタ・アニタSanta Anita Park)はロサンゼルス近郊にある名門競馬場だ。

3月29日のScience誌のニュース欄に"Wave of horse deaths on famed racetrack poses puzzle"という記事が出た。”名門校競馬場での相次ぐ競走馬の死亡の謎”とでも訳せようか。

記事の内容は、サンタ・アニタ競馬場でここ3ヶ月以内に計22頭の競走馬が脚部の故障のために薬殺処分となった。この間の死亡率が異常に高いことが問題視されている。その原因がサンタ・アニタ独特のターフの性質によると思われたので、米国内で評価の高い研究施設に調査を依頼したが、依然として真因が不明であるということだ。

近年の競馬は競走馬に過剰なストレスがかかる。行くところまで言ってしまった感がある。今回の件で最も敏感に反応したのは動物愛護団体だ。いわば競馬そのものが曲り角に差し掛かっているような気がしてならないが、このことに関しては今回は書かないことにする。

最近サンタ・アニタでもう一頭の競走馬が死亡したので、少なくとも丸一日競馬開催を中止することが決まった。カリフォルニア州の競馬を統轄する組織であるCHRB(California Horse Racing Board)は、来週この問題を討議することを公表した(注)。

 

以下の部分は本質的には競馬そのものとは関係ない。

サンタ・アニタ競馬場は大戦中に日系人の収容施設として使用された(注2)。米国人騎手で日本でもたびたび騎乗しているコーリー・ナカタニCorey Satoshi Nakatani)は日系三世だが、彼の父親は収容所で生まれ、サンタ・アニタで幼児期を過ごしたという。コーリーはその父に連れられて競馬場に行き、騎手への道を選んだ。そのナカタニがサンタ・アニタで勝利した時のTVドキュメンタリーが全米ネットのスポーツ専門局(ESPN)で作られたという。これを製作した人(米国白人)は、周囲の米国人があまりにも戦時の日系人収容のことを知らないので、何とかスポーツに絡めたドキュメンタリーを作ろうと思ったそうである。残念ながらこの番組は結局放送されなかった。

この話はリトルトーキョーの全米日系人博物館でのシンポジウムで聞いた。ロサンゼルスを訪ねる方には全米日系人博物館に立ち寄ることをお勧めする。

 

 

(注)米国には日本のJRAのような全国的な競馬組織は存在しない。州ごとに組織がある。例えばニューヨーク州ではNYRAという組織が、ベルモントサラトガなどの競馬場でレースを開催している。

さらに国民的な人気という点でも日本とは大きな差がある。米国ではケンタッキーダービー(5月初め)から始まる3歳馬の、いわゆる三冠馬を決定する三つのレースだけが全国的に注目される。したがって多くの人々にとって競馬の季節は5月の1ヶ月間だけだ。しかも馬が最も強くなるその後の時期には見向きもされない。

(注2)全米日系人博物館によると正式な日系人収容所は計11箇所とされており、サンタ・アニタは含まれていない。収容所に送られる前に日系人が集められていた集合所の一つであったらしい。

 

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サラトガ競馬場