メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」

日刊工業新聞のサイトに”ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」を導き出したAIの貢献度”という短い記事が出ている。あまりに短いのでこの住友化学の試みがどのようなものかは今ひとつ定かではない。

先に昨年11月にScience誌に出された同号に出た研究論文の紹介記事を挙げておく。タイトルは"Pesticide affects social behavior of bees"だ。要するにネオニコチノイド系薬剤が蜂の社会行動に影響を及ぼして、その結果蜂のコロニー維持に支障をきたすという実験結果が得られたという。ネオニコチノイドがミツバチの生死そのものに影響を与えているわけではなく、社会行動の異常によって子孫の繁殖が行われなくなり、結果コロニーが消滅するというわけだ。

但し、ここで紹介された研究ではミツバチではなく、マルハナバチ(bunlebee)が実験材料として用いられているが、この紹介記事ではマルハナを使ったことがこの研究の成功の理由であると述べている。(私にはその理由はよくわからないが。)ミツバチで同じことが起こるかどうかは今のところ不明だが、マルハナバチもいわゆる授粉者(pollinator)として働いているので、この実験結果は実用的価値がある。

最初の住友化学の試みに関する記事では、ハチへの毒性を抑えた殺虫剤の開発にAIを用いたということだ。計算結果に基づいて試作品を合成したところ確かにハチへの毒性の低い成分が合成できたという。

しかし世界的に問題となっているネオニコチノイドもハチへの”毒性”自体ははっきりしない。そこに上のScience誌の論文の価値があるわけだ。住友化学の試みは評価できるとしても、さらにAIには”ハチの社会行動に影響を与えないような”成分を”考えてもらう”ことが必要かもしれない。