メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

H7N9、スペイン風邪(1,918年)以来の脅威? 

タイトルがやや刺激的だが、もう一つの新型トリインフルエンザのことだ。

野鳥の渡りのためトリインフルエンザウイルスが伝搬されることを書いた。温帯地方からウイルスが北極圏に北上し、さらにそこから別の温帯地方にウイルスが南下するという形をとる。しかし最近問題とされていたトリウイルスはA/H5N8であった。

ウイルス学者達はこのH5N8型によるヒトのインフルエンザの流行を警戒していたわけだが、前の記事でも書いたが鳥の世界にはありとあらゆるインフルエンザウイルスが存在している。最近中国で大きな問題となっているのはH7N9型によるヒトの感染だ。この型のウイルスが初めて確認されたのは2,013年であったが、最近になって中国でヒトの感染が急増している。1月16日現在、918例がH7N9によるものであることが確認され、そのうち359人が死亡している。きわめて高い致死率である。

これまで家禽の発症例としてはH5N8やH5N6の方がより大きな問題であった。中国では生きた家禽が市場で売買されて各家庭に持ち帰られるが、この習慣がトリのウイルスのヒトへの感染を促進している。今回問題となったH7N9のヒトへの感染も、その他の新型ウイルスの流行と同様、生きた家禽の市場に由来している。既にヒト-ヒト感染が疑われるような感染クラスターが認められるが、今のところその確たる証拠は得られていない。WHO北京事務所によると、これまでのところヒトへの病原性を与えるようなウイルスの遺伝的変異も認められないという。

H7N9はトリにはたいした病原性を示さないが、ヒトには重篤な症状を引き起こす。過去に同様のパターンを示したインフルエンザは1,918年のスペイン風邪(H1N1)のみであるという。このときは世界中で0.5~1億人が死亡している。

このスペン風邪パンデミーは、第一次大戦の戦地での不良な衛生状態と、大量の兵員が大西洋を往復することによって促進されている。このとき世界中の人々はこのウイルスに対する免疫を持っていなかったのだ。現在感染が拡大しているH7N9についても世界中の人々は免疫を持っていない。さらに現在人々の移動は量的、速度的に100年前とは比較にならないほど拡大している。ヒト-ヒト感染能を獲得するような変異が起こったらひとたまりもない。

要警戒だろう。