メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

2016-01-01から1年間の記事一覧

”The transformation of oncology" by Harold Varmus

最近のScienceにHarold Varmusによる”The transformation of oncology”と題した巻頭言が載っている。 Varmusは師Michael Bishopとともに1,989年のノーベル医学生理学賞を受けた人物。“レトロウイルスのがん遺伝子が細胞由来である”ことを明らかにした業績に…

近縁人類の交雑:より複雑な実態

わずか二ヶ月前にヒトからネアンデルタールへの遺伝子流入の論文が出たばかりだ。Science onlineに掲載されたネアンデルタール、デニソヴァ人からのヒトへの遺伝子流入が数次に亘っていたという論文は、この分野の驚くほどのスピードを物語っている。どうや…

CRISPR/Cas9に関するUSDA(米農務省)の決定

CRISPR/Cas9を用いて作出された植物に対する米国農務省(USDA)の態度が公表された。 これはAgaricus bisporusというキノコに関するものである。どこのスーパーにもおいてあるキノコで、common white button mushroomとか呼ばれている普通の食用キノコである…

三重の生物学:蜂群のウイルス感染

以前絶滅危惧種の敵は感染症であると書いた。 パナマゴールデンフロッグ(Panamanian golden frog, Atelopus zeteki)というカエルがいる。パナマのシンボル的動物で、中米地域にふんだんに見られたが近年個体数が激減している。このカエルはカエルツボカビ…

合成生物学:ミニマム生物を作る、またはリバース・テクノロジー

合成生物学(synthetic biology)については何度かまとめて書いてみようと思っていたが、そのあまりの間口の広さに辟易して手をつけないできた。しかし最近号のScience誌に巨人Craig Venterが率いるグループから“最小のマイコプラズマを作り出した”という論…

組み換え型蚊のその後:ネッタイシマカの撲滅へ

米国FDAはGMOカ(OX513A)を野外試験を開始するための手続きに入ったと発表した。これはネッタイシマカ(Aedes aegypti)を駆除する目的でOxitec社により作出され、その試験地としてフロリダ州南端の島(Key Haven)が選定された。 このカを野外に放出するこ…

コア施設の重要性

コア施設の重要性について考えてみたい。 コア施設(core facility)とは大学などの研究機関に設けられた共通の実験施設のことだ。日本でも動物実験施設やラジオアイソトープ実験室などを思い浮かべることができる。しかしこのコア施設に関しては米国は日本…

ブラジルのジカウイルスの起源

ジカウイルスに起因すると見られる小頭症だが、その最大の謎は“ジカウイルス自体はかなり以前から知られていたにも関わらず、近年のブラジルでの流行で初めて小頭症との関連が現れたのはなぜか?”ということだったと思う。この疑問に答えるための有力な情報…

左右対称な王立ブリュッセル音楽院

ベルギー、ブリュッセルのテロのニュースを聞いてだいぶ昔の記憶が蘇った。 私はブリュッセルを二回訪れている。一回目は1,984年同国ゲントにおける学会のついでであった。このときはアムステルダムからベルギー入りした。ビクトル・ユーゴーが“世界一美しい…

がん細胞でのスーパーエンハンサーの“生成”

前回MYCとdiapauseの話で、MYCは代表的がん遺伝子(oncogene)といったが、正確にはがん原遺伝子(proto-oncogene)だ。すべての内在性のがん遺伝子(がん原遺伝子)は細胞内で正常な機能を持っているが、質的、量的に活性化されることによってがんを引き起…

幹細胞維持におけるMYCの役割

“Mycの発現がない状態で細胞は増殖することなく多分化能を保持する“という論文が出た。たいへんわかりにくい表現で恐縮であるが、もとのタイトルは以下の通り。 “Myc depletion induces a pluripotent dormant state mimicking diapause”, Scognamiglio et a…

ジカウイルスとそれに関連して

俄かに騒がしくなってきたジカ熱である。 ジカウイルス(ZIKV)によると見られる新生児の小頭症の発生がブラジルに加え、つい最近コロンビアでも確認された。コロンビアでの最初のZIKVの検出は昨年9月のことなので時期的にも合っている。こうした疫学的情報…

何が表現型を決めるのか?:肥満マウス出現へのエピジェネティック因子の関与

少し前に書いたサルの自閉症モデルの話題で、エピジェネティック因子の機能の解析は面倒であることを書いた。 1月のCellにTrim28のハプロ不全(haploinsufficiency )でマウスの肥満がおこる個体とおこらない個体があり、この肥満形質の発現に関与する遺伝子…

合成生物学の勝利?

2014年にSanofiが遺伝子改変酵母を用いて生産された抗マラリア薬を上市したときには、合成生物学の勝利であると喧伝された。 昨年のノーベル医学生理学賞で広く知られることとなったマラリア特効薬アルテミシニン(artemisinin)のことである。これはArtemis…

ヒトからネアンデルタール人への遺伝子流入

一昨年出版されたSvante Pääboの著書”Neanderthal Man”は日本語にも翻訳されて反響を呼んだ。 その後もPääboは重要な発見を公表し続けている。はじめに彼らの初期の論文で公表された発見を要約する。そこではネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの配列決…

サウスカロライナへの旅:南北戦争の本質

サウスカロライナ(South Carolina)州に旅行してきた。本ブログのテーマである生命科学とは関係ないが、旅行中に考えたこと、感じたことをまとめて書いてみる。 サウスカロライナは南北戦争(1861−65年)における南軍(アメリカ連合国、Confederate States …

サルにおける自閉症のモデル

自閉症は様々な遺伝子の遺伝子重複で引き起こされることが知られているが、最近サルにおける自閉症モデルが作成された。ここで用いられた遺伝子はMECP2である。MECP2はメチル化DNAに結合しその部位での転写抑制に関わっていることが知られている。 MECP2の変…

Darwin's Dogs Project

“ダーウィンの犬達”プロジェクトとはマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)のElinor Karlssonによるユニークな試みである。 イヌにもヒトと同様に強迫性障害(obsessive–compulsive disorder (OCD) )があるらしい。(イヌの病名はcanine com…

コッホ三原則、雑感

コッホ三原則の現代的見直し論が出ている。今更という感じがしないでもないが、考えた(感じた)ところを書いてみる。 コッホ三原則(Koch’s postulates)は感染症の原因を特定するための手続き(手順)だ。これは100年以上前に作られたものだが、基本的な考…

ドラッグスクリーニングの”ド素人化”:DELを巡って

DNA-encoded library(DEL)の話 最近出現した化合物ライブラリーによってドラッグスクリーニングの“素人化”がさらに進展しそうな勢いだ。 2,010年頃に成立した(と私は思っているが、もう少し前かもしれない)がん研究のパラダイムシフトにより、臨床研究者…