メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

テロメア維持の機構:(4)ATRXはテロメアDNA複製を”助ける”?

前回からの続き)

すでに繰り返し書いたようにALTの腫瘍では正常なATRXタンパクが発現していない。ALT細胞株にATRXタンパクを強制発現すると、ALTの諸性状が消失することは前回述べた。

同じような状況でのテロメア長の変化についてはRichard Gibbonsのグループが2,015年に発表している。ここではALTの細胞株であるU2OS細胞にテトラサイクリンで発現が誘導されるシステムを作り、ATRXタンパクを発現させている(注1)。U2OS細胞はテロメラーゼを発現していないので、もしALTが機能しなければ、テロメア短縮が起こるはずである。結果は期待通りでATRXの発現誘導後、約一週間でテロメア長がサザンブロット上で短縮が認められ、17日後には初めは当初50kb程度あったテロメアが20kb以下になっていた。論文にはこの期間の正確な細胞分裂の回数は記載されていないが、毎回の分裂でkb単位のテロメアが短縮していることになる(注2)。

このデータを受け入れるならば、ALTにATRXが必須であることが”完全に”証明されたわけだ。

テロメアDNAにおけるDNA複製の異常

さて前述したようにテロメアDNAはG4を容易に作る。G4の立体構造はDNA複製におけるC-rich strand鎖の伸長(DNAポリメラーゼの進行)を阻害するので、当然複製フォークのブロックを引き起こすことが予想される。このようなテロメアDNAの複製阻害は当然細胞にとって有害である。

テロメスタチン(telomestatin、TMS)はG4に結合し、G4構造の安定化を促すことが知られている。ATRX遺伝子をノックアウトしたマウス神経前駆細胞は、TMSに対して高い感受性を示すことが明らかにされている。こうしたデータは、ALT細胞ではテロメアに生じる”G4構造の生成またはその処理”に何らかの欠陥があることを示唆している。

これまでに複数の研究グループがATRX欠損細胞では、DNA複製が渋滞(stall)していることを見出している(注3)。これらは同時にDNA複製障害が引き起こす反応を伴っていた。上のGibbonsらの論文ではこのテロメアDNAの複製異常の問題をさらに追及している。彼らはDNA fiber analysis法によりDNA複製の進行をトレースしている。その結果、ATRX欠損細胞では複製の渋滞が高頻度で起こっていた。但しこの論文で、はこうしたDNAの複製異常がテロメアに特異的に生じているかは明らかにされていない(注4)。

ALTではテロメアでのDNA損傷が増加しているのか?

以前Reddelグループの仕事で、ALT細胞ではテロメアでのγ-H2AXシグナル(telomere dysfunction-induced foci、TIFs)が高頻度に見られることを紹介したγ-H2AXの本体はマイナーなコアヒストンH2AXがリン酸化されたものだ。このリン酸化はATM、ATR、DNA-PKといったキナーゼによってなされる(注5)。だからALTではテロメアでDNA損傷が高頻度に生じていると考えるのはとても自然な理解だ。DNA損傷の帰結としてテロメアの構造の異常が生じるはずだが、実際マウスの筋原細胞でそのことは示されている

これと関連してDNA損傷誘導系(DNA damage-induced response、DDR)がALTに必要であるというデータも重要だ。ATR阻害剤でALT細胞を処理すると細胞死がおこるという報告がある。このデータはALTの引き金がDNA損傷で、かつDDRの帰結としてHRが働くという説を支持している。Gibbons論文では、Hela細胞(ATRX+)でG4を安定化させる他の化合物(pyridostatin、PDS)の処理でC-circleが増える。C−circleの出現はHRが働いていることを一応示している(注6)。

MRN複合体は二本鎖DNA断裂の修復に大きな役割を果たす。この複合体のうちのMRE11タンパクはHRの最初のステップを起こす分子である。このMRNタンパクがALTが起こるのに必要であることも知られていた。GibbonsらはATRXタンパクとMRNタンパクが結合することを示した。さらにATRXの発現している細胞では、ATRXとMRNが同じ場所に観察され、かつこれは核内のテロメアとは異なる場所であった。すなわちATRXによるテロメアからのMRNの隔離だ。ATRXがないALTでは、MRN(およびそれを含む複合体)がテロメア配列に容易にアクセスできることが組み換え頻度が上昇する原因の一つだと考察している。

これらのデータをまとめてみる。ALTではテロメアでのG4構造が複製の障害となり、この障害そのもの、あるいはこの障害の帰結としてDNA断裂が生じる。これらによって惹起されるDDRによってHRが発動される。これが現在のALTのイメージだ。

ATRXの役割はクロマチン化でG4形成を抑えること?

ALTが開始されるために必要な役者が一通り揃ってきた。最初の疑問に戻ろう。ATRXはどのようにしてALTを抑えているのだろうか? 

既に述べてきたように、ATRXはDAXXと複合体を作りヒストンH3.3をテロメアDNAに取り込ませ、クロマチン形成を行う。ここでDAXXは実際にH3.3と結合するシャペロンだ。In vitroではDAXX単独でもこのクロマチン化がおこるので、ここでのATRXの役割は今ひとつ明らかではない。クロマチン化の低下がALTの原因であるという考えは、別の論文のデータも支持している。そこでは別のヒストンシャペロン(ASF1aおよびASF1b)をノックアウトした際に、ALT様の現象が観察されている。

ATRX自体にはG4構造を解く活性はないらしく、ATRXは機先を制してH3.3を含んだクロマチンを作ることで、間接的にG4レベルを抑えていると思われる。

テロメアにおけるATRXの働きのモデル

ATRXとALTとの関係を示すと次のようになる。これはGibbonsらの論文のモデルとほぼ同じ。

 

(正常細胞)ATRXがH3.3の取り込みを促す→クロマチン形成によるG4形成の阻止→正常なDNA複製

(ALT細胞)ATRXの不在によるG4の形成→DNA複製の阻害→DNAの断裂→ATM系の作動→HRの進行

 

このモデルの問題点には次のようなものがある。

まず第一に、ATRXがいかにしてテロメアDNAにたどり着けるかということだ。もしATRXのテロメアへの局在がDNA複製とカップルしていると仮定するならば、ATRXがテロメアにアクセスするために他の分子への結合能が必要である。DNAクランプであるPCNAはATRXを局在させる分子かもしれない。実際ATRXにはPIP−boxPが存在している(注8)。しかし一方で既に紹介したとおり、ATRXはG4に親和性をもつ。このことは、GibbonsモデルのようにATRXがない場合に限りG4ができると考えるよりも、先にG4ができてからATRXがそこに来ると考えたほうが自然かもしれない。しかしこの場合はG4自体の解消はどのタンパクが行うのかという問題が残る。

 

続く

 

(注1)U2OS細胞は骨肉腫の細胞で、ALTの細胞としては最もよく用いられている。その大きな理由はこの細胞が正常なp53を発現していることで、特にDNA損傷を受けた後の細胞の反応を観察するのに適しているからだ。

(注2)この短縮のスピードは不死化していない正常細胞でのテロメアの短縮速度よりもずっと速いように思う。一度ALTを獲得した細胞ではATRXの発現によりテロメアの短縮化が何らかの理由で速く起こるのかもしれない。しかしこのサザンブロットのパターン(Fig. 1g)は少し奇異だ。それは実験開始時に既にテロメアのサイズが比較的狭い範囲に限られていることだ。これは典型的なALTのパターンではなく、また既に何度も報告されているU2OSのそれとも異なっている。このデータを全く信用するのは少し早いかもしれない。

(注3)”stall"の適当な訳語がわからなかったので”渋滞”を使ってみた。この場合のstallは複製フォークを停止させるが、完全にその進行能を失わせるでもない。複製フォークの停止状態が継続すると、やがてそのフォークは”collapse”(崩壊)を起こす。これはその部位でのDNA鎖の切断が起こることだが、そこではHR等の修復機構が作動するのでいずれ複製が再始動する。個々の複製フォークについてはその運命はわからない。DNA複製が再開されるか崩壊するかはこの”渋滞”の状態ではわからない、そのような状態が"stall"という語に込められている。

(注4)DNA fiber analysis法では通常ゲノム上のどの配列でその複製フォークが働いているかはわからない。FISHと併用することでそれが可能かどうかは私にはわからない。”わからない’という意味は理論的にはそれは可能だが、定量的に観察可能な状態にできるかどうかは判断できないということだ。

(注5)しかしここではそれがcircleがどうかは特定できない。つまり染色体外に出てきたテロメア配列が環状のものか、または直鎖状のものかはここで用いられているスロットブロットでは定かではない。こうしたDNAの形状は、損傷または修復の起こり方を推定する上で有用な情報となる。残されたDNAの配列も一般的には有用な情報を与えてくれるが、ことテロメアに関しては単純な繰り返し配列なので、これはあまりinformativeではない。

(注6)ATRXとATRは略称が似ているが全く異なるものだ。ATRXはX-linked Alpha Thalassaemia mental Retardationに由来して、遺伝子産物の実体は約250 kdのATPaseタンパクだ。ATRはAtaxia Telangiectasia and Rad3-relatedの略でDNA損傷誘導反応の核となるチェックポイントを構成する約300 kdのキナーゼだ。

(注7)G4を解くヘリカーゼとしてFANCJやBLMが知られている。FANCJ欠損細胞ではTMSに対する感受性が顕著に上昇することが知られている。このことはFANCJがin vivoでG4を解消していることを示すが、実際にテロメアのG4の解消に寄与しているかどうかは不明だ。

(注8)PIP-boxはPCNAに結合する多くのタンパクで存在が知られているPCNAへの結合能を担うモチーフである。ATRX配列上にもPIP-boxが認められるが、ATRXがPCNAと結合するかどうかは調べられていない。

テロメア維持の機構:(3)ATRXの働き

前回から続く)

テロメアではG4が形成される

G-quadruplex(G4)というのは4個のグアニン塩基が同一平面上に配置した構造。ふつう二本鎖DNAが形成されるときに働くのはワトソン・クリック型塩基対だが、G4の場合はフーグスティーン型塩基対(Hoogsteen base pair)と呼ばれる。G4構造はゲノム上に [G3+N1-7+G3+N1-7+G3+N1-7+G3] といった配列が存在するときに好んで形成される。要するに3個連続グアニン塩基(G)に続いて他の塩基(N)が来るという単位が4回以上出現するような配列でG4が形成されやすい。テロメアはTTAGGGの多数回の繰り返しであり、上の一般式に合致している。ゲノムDNA上には総計300,000箇所もG4形成する可能性のある配列が存在する。これらの多くはワトソン・クリック型二重ラセンを作っているので、G4が形成されるのは一過性に一本鎖DNAができるときである。これは複製や転写のことをイメージすればよい。しかしテロメアではG−rich strand(TTAGGGの繰り返しからできている鎖)は3’側に突出した一本鎖DNAとなっている。だからテロメアではG4を形成しやすい条件が存在している。この意味については次の項で述べる。

G4の構造は物理化学的にきわめて安定で、ひとたび作られると100Cの加熱によっても壊されることはない。細胞内ではこのG4を解くような酵素(ヘリカーゼ)が多種類存在している。このG4構造物の存在が核の機能に重要な役割を果たしていることが次第に明らかになってきた。その一つは転写調節である。例えばMYC遺伝子だ。そのプロモーター領域にはG4を作る配列が存在し、この配列を破壊していやるとMYCの発現は低下する。

テロメアにできるG4の役割:ATRX/DAXXはH3.3のシャペロン

前述したようにテロメアではG−rich strand、すなわちTTAGGGの繰り返しからできている鎖は3’側に突出した一本鎖DNAとなっている。この一本鎖部分はループ状の構造(t−loop)を作っている。この構造を作るのに寄与しているのがsheterinで、これによってテロメアがDNA断裂として認識されないようになっている。しかし実際にこの領域ではG4構造ができていることは、抗G4抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)によって明確に示されている

ではテロメアのG4はどのような役割を果たしているのだろうか?

その前に、ATRXがどんな働きをしいているかについてみてみよう。ATRXはSWI/SNF-like ATPaseでその機能は多岐にわたるとされるが、ここで重要な役割はATRXはDAXXと複合体を形成してヒストンH3.3分子をクロマチンに取り込む役割を果していることだ。前回述べたようにATRXとDAXXは複合体を形成している。注目するべき事実はATRXはG-quadruplex(G4)に結合することが明らかにされた。

DAXXがH3.3をクロマチンに持ち込む機能を明らかにしたのはDavid Allisのグループだ。この論文の中身はもっぱら生化学的なアプローチによるものだが、要約すると次の諸点が示された。(1) H3.3のIPで、DAXXとATRXが見出された。(2) DAXXとH3.3のコアが結合すること。(3) DAXXがH3.3のシャペロンとして働く。(4) DAXXはH3.3のテロメアへの沈着に必要である。ATRX/DAXXはテロメアへのH3.3の沈着を行っているのだ(注1)。

このように、テロメアにはG4構造が作られ、これを認識するATRXがDAXXを連れてきてそこでヒストンH3.3をクロマチンに取り込むということになる。これを支持するデータとして、ALT細胞ではテロメアクロマチン密度(ヒストンを抱えているDNA領域の密度)が低下していることが報告されている

ATRX/DAXXが機能しないとテロメアで何が起こる? 

ATRX/DAXXが機能しないとヒストンH3.3がテロメアクロマチンに取り込まれないが、そこで疑問が浮上してくる。その際、テロメア維持機能にどんな不都合が生じるのか? どのようにしてこれがDNA傷害マーカーのγ-H2AXを生じさせるのか? さらにこうした異常なテロメアの性質がどのようにしてテロメア配列での組み換え頻度を上昇させるのか?

これらの疑問に答えを出すことでALTという現象の理解につながり、ひいてはこの特異なタイプの腫瘍の治療法の開発を促すと思われる。

 

続く

 

(注1)クロマチンで最も広範に見られる普通のヒストンH3(H3.1)のクロマチンへの取り込み(=ヌクレオソーム形成)はDNA複製時のみに起こり、これには他のシャペロン(CAF−1)が介在する。ここではシャペロンをその場所に連れてくるのはPCNAだが、DAXXの場合はATRXがその役割を担うということだ。H3.3のシャペロンとしてはHIRAがよく知られている。Allisグループは別の論文でゲノム上の大部分の領域ではHIRAがシャペロンとして働くが、テロメアでのH3.3の取り込みはATRX/DAXXに依存することを示した。

マイク・ホンダの引退

2,016年は各国で政治が動いた年だ。大統領選挙に加えて上下両院議員の選挙も行われた。

最近のサイエンス誌にマイク・ホンダの議会からの引退が報じられている。ホンダは日本ではいわゆる従軍慰安婦問題で日本を糾弾する急先鋒として知られているが、ここでの文脈は科学、教育政策に貢献した政治家としてホンダをとらえ、その引退を惜しむ記事だ。

マイク・ホンダ(日本名、本田実)は1,941年カリフォルニア州生まれの日系三世で現在75歳になる。幼少期をコロラド日系人収容所で過ごした後、カリフォルニアに戻った。大学卒卒業後は高校で理科の教師や校長を務めた。1,971年当時サンノゼ市長であったノーマン・ミネタの任命によってサンノゼ市計画委員会委員にとなった(注1)。これで政治家への道が開かれ、カリフォルニア州下院議員の後、2,001年から同州選出の連邦下院議員となった。以後本年11月の選挙に敗れるまで8期(16年間)にわたって下院議員の職にとどまった。慰安婦問題に対する日本政府の謝罪要求を提出したのは2,007年1月だ。

サイエンス誌は特に科学、教育分野でのホンダに焦点を当て、インタビューしている。ホンダはこの議員生活で学んだことと変えたかったことを述べている。

ホンダは下院での1,000回を上回る公聴会に臨んでいる。ここでホンダがとりくんだことは、公聴会での議員たちのスタンドプレーを抑えることと、証人の重要性を評価することだった。”科学者たちはワシントンDCにやってくるが、彼らに必要なことは自身がいかなる専門的優位性(expertise)を持っていて、問題となっていることがいかに政策決定に重要であるかを示せなければならない”という。

ホンダは常に科学的事項について実質的な(科学的な)証拠を重要視していた。科学、技術系の政府機関の予算配分を決定するパネルに継続的に関わっていた。

インタビューの中で、ホンダの任期中にシリコンバレーの人々がいかにワシントンDCへの態度を変えていったかを述べている。それによると最初は”DCが自分たちの邪魔をしなければ良い”と考えていた。しかしやがてホンダの助言に従って、連邦議会への働きかけを積極的に行うようになり、現在ではDCに事務所を持っていると述べる(注2)。

さらに教育政策に関しても重要な役割を果たしたようだ。オバマ政権下では教育省長官の職を望んでいたようだがこれは実現しなかった。

 

ちなみにこの記事では科学、教育分野以外のことについてはあまりふれられていない。したがっていわゆる従軍慰安婦問題についても全く記載がない。日本では慰安婦問題以外のことでは全く知られていないが、この記事からホンダ議員の貢献を垣間見ることができる。当然といえば当然だが、一人の人間の活動がたったひとつのことに限られているはずはない。

 

(注1)ノーマン・ミネタはその後アジア系として初めて連邦政府の閣僚(商務長官、後運輸長官)になった。

(注2)いわゆるロビー活動をするようになったということだ。シリコンバレーはホンダの選挙区に含まれている。ロビーというのはネガティブなイメージで語られることが多いが、自らの理想・目標を実現するために行う活動だ。我々の病院は一般病院とは異なった特殊なものなので、政策的な特典を得るためにロビイストを議会に常駐させているとと聞いている。これは主に州議会のレベルだが。そのための資金は広く一般からの寄付金によるものであり、こうした活動は巨大企業によるものとは性質が異なり、なんら恥ずべきことではないと考える。

テロメア維持の機構:(2)ATRXの失活がALTを引き起こす

前回からの続き)

ALT細胞はATRXまたはDAXX遺伝子の変異を持つ

ALTを抑制している遺伝子は何か? この疑問に対するヒントは膵神経内分泌腫瘍(PanNET)という稀な腫瘍の解析から得られた。ジョンズ・ホプキンス大学のグループはPanNETではATRXまたはDAXXの変異が高率に見られることを明らかにした(注1)。さらにPanNETの臨床検体におけるATRXの変異とテロメアの状態との関係を調べた。計41例の検体中、テロメアFISHでALTの性質である極端に強いテロメアシグナルを示したのは25例で、このうち19例はATRXまたはDAXX遺伝子に変異があった。残りの6例では組織免疫染色でATRXまたはDAXXタンパクの発現が見られなかった。したがってALTを示す全ての例でATRX/DAXXの異常が見られた。一方ALTの性質を持たなかった残り16例では免疫染色、遺伝子変異の両方で異常は見いだせなかった。この結果はALTとATRX/DAXXとの間に完全な相関があることを示している。

このようなATRX/DAXX変異とALTとの関連については、さらに22細胞株を用いた研究によっても確認された。この論文ではさらにテロメラーゼ陽性細胞であるHeLa細胞でATRXタンパク量をshRNAによって低下させることによって、ALTの性質が現れるかどうかも調べている。結果は否定的で、ATRX量の低下によってはT-SCE頻度の上昇やc-circleの増加は見られなかった(注2)。HeLa細胞は子宮頸がん由来の上皮系の細胞株だが、この細胞の由来組織とALTとの関係についてはやがて重要なことが明らかになる。

ATRXの失活はALTに必要である

ATRXの失活がALTに必要(および十分)であることを確定するにはどうすればよいか? 以下、話を単純化するためにATRXだけのストーリーとして続ける。 

大雑把に言うと、(1) ALTの性質を示さない細胞株でATRXを失活させたときにALTの性質が出現する、それに (2) ALT細胞株にATRXを発現させてやった際にALTの性質がなくなることを示してやれば完全な証明になる。後者については上に挙げた論文で、HeLa細胞では否定されている。

昨年(2,015年)この答えを出したのはまたしてもReddelのグループの論文だ。

まず (1) について。

彼らは腫瘍由来の細胞株でATRX遺伝子を破壊(ノックアウト)してやった。shRNA(ノックダウン)では低レベルのタンパク発現が残ることが多いので、ノックアウトをおこなったてダメを押したのだ。上皮由来のがん(大腸がん)から樹立されたHCT116細胞でATRXを失活させた上で、得られたクローンを調べたところいずれのクローンでもALTの性質を確認できなかった。HCT116細胞はテロメラーゼ陽性である。この結果はテロメラーゼ陰性の上皮細胞の細胞株でも同じであった(注3)。

次いで間葉性由来の線維芽細胞にSV40を感染させた細胞にshRNAを発現するベクターを感染させた。この細胞集団は未だ不死化する以前の段階にある。この細胞集団の継代を続けてゆくと、やがて細胞増殖が停止した状態になる。これはクライシス(crisis)と呼ばれているが、この中からSV40によって不死化された一部の細胞の増殖が立ち上がってくる。ATRXノックダウン細胞では対照shRNAに比べてこのクライシスの時間が短縮していた。ここから得られた細胞クローンは限界を越えて増殖可能、すなわち不死化の性質を獲得していたと理解される。これらクローンについて各々c-circleの量を調べると、ATRXノックダウン細胞ではc-circleの増加が見られた。これらクローンがテロメラーゼ陰性であることも確認された。したがってALT陽性である。注目するべきことに、対照shRNAからも低頻度で不死化したクローンが得られるが、これらについてもその多くが自然にATRXの発現を脱落していて、ALTによる不死化性質を獲得していた。さらにこれらクローンについてサザンブロットで実際のテロメア長を調べたところ、ALTの特徴の一つである不均一な分布を呈していた。これは決定打である。

要するに上皮由来細胞とは異なり、間葉系細胞では細胞の不死化に伴いATRXの脱落を伴うALTが出現するということが実験的に明らかになったのだ。

さて逆向き実験の (2) である。

同じ論文で用いられているのは広く用いられている2細胞株と上記 (1) で作られた細胞株一つだ。いずれもALTである。これらにATRXを一過性に強制発現させた。ATRXが発現すると比較的短時間でc-circleの量が減少した。これからALTの性質が消失したと判断された(注4)。

以上を総合すると、ALTの出現にはATRXの失活が重要な役割を果たしていることが確定した。これはわずか1年半前のことである。

しかし興味深いのは、なぜ上皮由来細胞と間葉系細胞でALTの出現のしかたにこのような違いがあるのだろうか? このALT出現における上皮系と間葉系の違いは後にもう少し詳しく述べることにする。

ATRXの失活はALT細胞の”出現を許す”

結局これらの実験結果は、細胞がALTの性質示すためにはATRX遺伝子の失活が必要である。もしATRX(またはDAXX)の失活がALT獲得の必要な”唯一のできごと”であるならば、ATRXを除去した直後にALTの性質が検出されるはずである。しかし実際にはALTになるためには長時間を要した。したがってさらに他のgeneticまたはepigeneticな変化(失活または活性化)が必要であるということだ。ATRXの失活は必要であるが十分ではないのだ。 

ALTに必要な別の変化は何か?という大きな疑問が残る。

 

続く

 

(注1)ATRXとDAXXはタンパク複合体を作り同じ機能を遂行すると認識されている

(注2)理屈としては、HeLa細胞ではテロメラーゼ陽性だがテロメラーゼの存在がALTの発現を邪魔しているという考えは可能性として成り立つ。しかしこれは後に公表された仕事により否定されている。逆にATRX発現の有無がテロメラーゼの発現に影響を与えるかどうかも疑問も出てくる。しかしこの点に関しても答えは"no"であることがわかっている。

(注3)ここで用いたのはSV40ウイルスで不死化されたヒト乳腺上皮細胞。

(注4)ATRXを強制発現したのちに、テロメア長の不均一性が消失するがどうかは重要なポイントだ。この実験はATRXの一過性発現(transient transfection)であった。だから長期間培養するうちにいずれATRXレベルが低下、消失してしまうと予想される。ATRXが長期間発現するようレンチウイルスなどの実験を用いることも可能かと思う。しかし用いられた細胞株はいずれもテロメラーゼ陰性なので、ALT、テロメラーゼのいずれのTMMも機能しなくなりことにより、テロメア長に明らかな変化が訪れる前に細胞増殖が停止してしまう可能性が高い。こうした実験をReddelグループが試みていないはずはなく、いずれデータが出てくる可能性もある。

 

 

 

 

 

 

テロメア維持の機構:(1)ALT

大部分のがん細胞の無限増殖能はテロメラーゼの”再”活性化による

がんで認められるテロメア維持の機構(temoere maintenance mechanisms,TMM)が確定したようなのでまとめたい。

テロメア維持といっても大部分のがんではテロメラーゼ(telomearse)の”再活性化”によっておこる。”再”というのは、ヒトの体細胞のほとんどでは胎児期に発現していたテロメラーゼが出生後に沈黙している(silenced)からだ。体細胞ではテロメラーゼの発現が抑制されるので、細胞分裂ごとにテロメアの短縮がおきる。テロメア長が限界を超えて短くなると細胞老化をきたし、これ以上の細胞分裂はおこらない。この仕組みによって細胞の分裂寿命が設定される。進化の過程で寿命の長い多細胞動物でがん化の頻度を低下させる仕組みが出来上がったものと思われる。しかしがん化の過程で何らかのメカニズムによってこのsilencingが外れてテロメラーゼの再発現がおこる。これで分裂寿命が解除されて無限になる(注1)。この機構がだいたい85−90%のがんで見られるTMMだ。

さてここ数年でクリアになったのは残りの15−20%のがんで見られるALTalternative lengthening of telomeres)の機構だ。これはテロメラーゼの再発現を必要としないTMMだ。がん細胞は多かれ少なかれゲノム維持に異常があるが、中でもALT細胞はがんの中ではマイノリティーにも関わらず研究者を魅了してきた。

ALT細胞の持つ特徴:”テロメアが飛ぶ”→ALTは相同組み換え(2,000年)

様々なALT細胞の特徴が記載されてきた。これらのうち重要なものは、(1) 不均一なテロメア長(注2)、(2) T−SCEテロメアにおける姉妹染色分体交換)頻度の上昇、それに (3) 染色体外のテロメアDNA(c-circle)の増加だ。これらの特徴はいずれも相同組換え(homologous recombination、HR)の関与を疑わせるものだった。

この問題に決着をつけたのはRoger Reddelのグループだ(注3)。彼らは2,000年に発表した論文で、テロメア配列の中に人為的にプラスミドを組み込んだヒト株化細胞を作成した。これらを長期間培養して染色体標本上でのプラスミドの場所をFISHで同定した。その結果、ALT細胞は導入したプラスミドはもとの染色体以外の(番号の違う)染色体のテロメアにも見出されるた。”飛んでいた”のだ。しかもこの飛んだ先は複数の異なる染色体だったのだ。一方テロメラーゼ陽性細胞ではこうしたテロメアの”飛び火”はおこらなかった。この現象を解釈するに最もふさわしい理屈はHRである。

ALT細胞ではなぜ組み換えが高頻度におこるか?

ここに到って疑問が生じる。それはALT細胞におけるテロメア配列の組み換え頻度が上昇しているのはなぜかということだ。可能性を整理すると、(1) ALT細胞では全般的に組み換えを引き起こすような活性が核内で亢進しているのか? または (2) ALT細胞ではクロマチン構造その他の変化によって組み換えを受けやすいように状態になっているのか?というように整理できる。その他の可能性もあるかもしれないが。

前者は組み換えを起こす側、後者は組み換えを起こされる側だ。実際HR活性が上昇している細胞株は世の中に存在する(注4)。さらに後者の疑問は、(2a) ゲノム全般にわたって組み換えを受けやすくなっているのか、または(2b) テロメア領域のみがそのような状態になっているのか、という具合に疑問は枝分かれしてゆく。

ALTは劣性形質(1,999年)

最初にヒントを得るために行われたのが体細胞遺伝学だ。正常ヒト繊維芽細胞とALT細胞を体細胞融合させ、どちらの形質が残るかを調べたのだ。結果は明瞭で、融合細胞ではALTの形質は消失する。これはがん抑制遺伝子の場合とよく似ている。がん抑制遺伝子が機能喪失している細胞と正常細胞とを融合させると、がんの性質は消失する。つまり正常ながん抑制遺伝子が消失(失活)することによってがん化がおこる。これと同じように解釈すると、正常細胞にはALTを抑制するような遺伝子が存在し、これが失われると細胞はALTの性質を発現するわけだ。

この”ALT抑制遺伝子”は何だろうか?

ALT細胞はテロメアでDNA損傷が頻発する(2,009年)

もう一つ、私が考える重要な知見がある。それはALT細胞ではテロメア配列中に高頻度にDNA損傷が起こっていることだ(注5)。 

ALT細胞はテロメラーゼ陽性細胞に比べて染色体末端でのγ-H2AXが陽性のスポット(telomere dysfunction-induced foci, TIFs)の頻度が高い(注6)。上にも書いたがALT細胞ではテロメア長が末端ごとに不揃いである。一般にテロメアが限界まで短縮するとテロメアを保護する構造物(t−loop)が形成されず、二本鎖DNA断裂(dsDNA)と認識される。こうした箇所ではTIFができる。しかしALT細胞で見られるTIFsは必ずしも短いテロメア上に見られるわけではない。TIFsは短いテロメアで高頻度に見られるのだ。この点はテロメラーゼ陽性細胞での結果と大いに異なる。こちらのグループではテロメア長が限界を超えて短くなると、上記のt−loopが形成されず、末端が二本鎖断裂として認識されるからだ。ALTではこうした説明が適用できない。

高頻度のDNA損傷がテロメア長とあまり関係ない様式でALT細胞で起こっている。ことがALTの機構自体と関係があるのだろうか? t−loopの形成にはTRF2やRAP1などのタンパクが複合体(shelterin)を作る必要がある。この論文の著者ら(これもReddelグループ)はALT細胞ではこのshekterinのできかたが不十分ではないかと推論している。本当だろうか?

 

続く

 

(注1)”無限”であることの証明は論理的には不可能だが、例えば1,951年に樹立されたHeLa細胞は現在でも旺盛に分裂増殖し、誰が培養しても無限に増殖するように見える。さらにこうしたテロメラーゼ陽性細胞にいわゆるドミナント・ネガティブ型変異テロメラーゼを強制発現してやると、これらの細胞はやがて分裂寿命に到達し、細胞老化をきたす。

(注2)テロメラーゼ再活性化によるTMMではテロメア長は比較的均一なサイズとなる。一方ALTではテロメア長が不揃いで染色体(分体)によっては巨大なサイズになったりきわめて短くなったりする。これを簡単に検出するには染色体標本上でテロメア配列((TTAGGG)n、またはその相補配列)オリゴをプローブにしたFISHを行う。

(注3)ALTの機構解明で最も貢献してきた人物はReddel(U. Sydney)だ。彼は優れた着想のもとに粘り強い追求の末、ALTに関する成果を独占してきた。テロメア長を調べることは時間と労力がかかる。多数のクローンを取って長期間培養して細胞数を継代ごとにカウントする。テロメア長を調べるには32P標識によるサザンブロットを用いる。いずれも泥臭く、面倒な作業だ。すでにテロメア研究ではノーベル賞が出されているが、ALTを含んだ領域が医学生理学賞で設定されるならば、間違いなくReddelが受けるであろう。

(注4)トリB細胞由来に由来するDT40はきわめて高い相同組み換え活性を持っている。この性質を利用して体細胞での遺伝子ノックアウト細胞の作成に用いられている。この細胞の高い組み換え活性はRAD54の関与するHRの活性に依存していることがわかっている。しかしこの細胞株自体はテロメラーゼ陽性で、ALT細胞ではない。

(注5)この仕事もReddelのグループによるものだが、やや難解な内容だ。その理由の主なものは、テロメアの分野に独特の用語や技法が頻繁に登場することだ。

(注6)γ-H2AXはコアヒストンのマイナーなコンポーネントH2AXの39位のセリン残基がリン酸化されたものだ。この残基をリン酸化するキナーゼはATM、ATR、DNA−PKだ。これらはいずれもDNA損傷によって活性化されるので、γ-H2AXの存在はその場所においてDNA損傷が生じたことを示している。優れた抗体が存在するので形態的に検出できる。クロマチン免疫沈降(ChIP)もできる。

"How to win the Nobel Prize"

Peter Doherty博士がノーベル医学生理学賞(1,996年)を受けて20周年に当たる本年、ノーベル週間に合わせてシンポジウムが昨日(12/9)開催された。

Doherty博士のノーベル賞とは、"for their discoveries concerning the specificity of the cell mediated immune defence"の功績(ノーベル財団による)によるものだ。それはいわゆる免疫のdual recognitionで、抗原認識では外来抗原に加えて自己の主要組織適合性抗原も同時にT細胞に認識される必要があるという発見だ。これは1,973年に発表された。

この業績は私が若い頃に日本語の紹介記事で読んだ記憶がある。”ヘェ〜、そんなすごいことが解ったのか”と感嘆したことを覚えている。後にSt. Jude病院に来てみたら、その感嘆した業績を挙げた人物が同じ階にいるではないか! といってもたいへん気さくな初老の紳士で(当時60歳近くだったと思う)特に偉ぶったところもない。アメリカでは最前線でバリバリやっているボスはだいたい強烈なオーラを発しているものだが、Doherty博士には特別オーラが出ているわけでもない。エレベーターで一緒になっても気軽に話ができるような方だ。ただし、強いオーストラリア訛りには閉口する(例えばトダイイズフライダイ (Tody is Friday) のような)。

昨日のシンポジウムは朝早くから始まり、著名な免疫(特に感染免疫)学者が次々と登場した。最後にご本人が登壇し、とても大雑把に感染免疫の研究史をたどり、自らのデータ(といっても1,980年代のものだが)を少しだけ話され、後半はノーベル賞を獲るにはどうしたらよいか、というなかば冗談、なかば本気の話、それに受賞した後に自分をめぐる世界がどのように変わったかという話をされた。 

Doherty博士は数冊の一般向けの著書をものしているが、その中に"The Beginner's Guide to Winning the Nobel Prize: Advice for Young Scienetists"というのがある。彼はスライドに要約を示してノーベル賞を獲るために心がけることを話した(写真)。興味のある方は下のスライドを読み、さらに本を買ってください。このスライドの項目の中では"Avoid marginal phenomina,,,,"というのが最重要だと思う。

終わりに最近の研究は分量が多くてかなわん、みたいな話になった。”昔はNatureのArticleは全部で4ページ、Letterは全部で3,000語だけだったのが、この頃は全く量が多くて、あれ何て言ったっけ(とフロアに問いかけて)、それそれSupplementary Crap (注、Dataのこと)、あれは酷い”となったところで拍手喝采となった。ビッグデータ中心の最近の科学の風潮には閉口している風であった。フロアの喝采もそれへの共感だったに違いない。

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追記 12/28/16

"Avoid marginal phenomina,,,,"について思い出したことがあるので加えておく。

数年前になるが私の娘が大学を卒業した折に、卒業式の祝辞を述べたのが当時オバマ政権一期目のエネルギー省(DOE)長官だったSteven Chuだ。Chu博士はノーベル物理学賞(1,997年)を受けてる。

そのなかでChu博士は卒業生に送る言葉として、短く”Do something that matters!"と言ったのだ。”大事なことをおやりなさい”ということで、Doherty博士の述べたことと本質的には同じだ。

感染症が遺伝子頻度の変化(=進化?)を起こす

近年の種絶滅の原因として感染症が重要であることを何度か書いてきた。隔離された集団に初めてある病原体が流行すると免疫がないために簡単に個体数が激減する。これはヒト集団でも同様で、その例として北米原住民が欧州の病原体と接触した際の人口の激減についてもふれた。同様に麻疹ウイルスと初めて遭遇したカナダ太平洋岸のツィムシアン(Tsimshian)族のHLA型に関する記載がNature Communicationsに出ている。

この部族は1,700年代の初めに欧州人と接触した。この接触の前後のツィムシアン族の遺伝子組成を比較するため、500~6,000年前に生きていた25体からのDNA、および現代ツィムシアン族の人々から得たDNAをエクソーム解析で比較した。

その結果、顕著に見られた違いはHLA-DQ1保有率が100%から36%への低下していることであった。HLA-DQ1は既に感染したことのある病原体に対する抵抗性を与えるが、初めて接触する病原体に対しては無力である。この研究を行ったグループは約175年前にこの遺伝的シフトが起こったと推定している。この時天然痘により全人口の約70%が失われたという。このことと一致するように、現代のツィムシアン族では遺伝的多様性が低下していることもわかった(注1)。

このような特定の遺伝子の頻度が集団中で大きく変化することを”進化”と呼ぶならば、感染症は進化の大きな原動力ということになる。ところがYuvari Harariはその著書"Sapiens: A Bief History of Humankind"の中で、そもそも伝染病の流行自体が約一万二千年前に起こった人類の”農業革命”以前にはそれほど深刻な問題ではなかったと述べている。確かにヒト集団がある程度以上の密度で存在しなければ、感染環の連鎖はおこらない。そう考えると、農業革命以前には伝染病がヒトの進化に大きく寄与することはなかったのかもしれない。

 

(注1)疾患の流行が特定の遺伝子を選択することは、タスマニアン・デヴィルの項で述べた。この場合は伝染性腫瘍に対する抵抗性を賦与するような遺伝子が選択されるようだ。(実際に頻度上が明らかになった遺伝子の機能が未だ特定されていないので、断定できないが。)

 

追記 2/23/17

ネイチャー2月23日号に関連する研究が紹介されている。そこでは16世紀にメキシコ原住民(アステカ人)が欧州から持ち込まれたサルモネラSalmonella enterica、パラチフスC菌)に感染し、人口が激減したことが推定されている。これは例によってサルモネラの配列が、その時期に葬られた遺体の腸管内容物のDNAから検出されたことによる。メタゲノム的手法である。