メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

テロメア維持の機構:(3)ATRXの働き

前回から続く)

テロメアではG4が形成される

G-quadruplex(G4)というのは4個のグアニン塩基が同一平面上に配置した構造。ふつう二本鎖DNAが形成されるときに働くのはワトソン・クリック型塩基対だが、G4の場合はフーグスティーン型塩基対(Hoogsteen base pair)と呼ばれる。G4構造はゲノム上に [G3+N1-7+G3+N1-7+G3+N1-7+G3] といった配列が存在するときに好んで形成される。要するに3個連続グアニン塩基(G)に続いて他の塩基(N)が来るという単位が4回以上出現するような配列でG4が形成されやすい。テロメアはTTAGGGの多数回の繰り返しであり、上の一般式に合致している。ゲノムDNA上には総計300,000箇所もG4形成する可能性のある配列が存在する。これらの多くはワトソン・クリック型二重ラセンを作っているので、G4が形成されるのは一過性に一本鎖DNAができるときである。これは複製や転写のことをイメージすればよい。しかしテロメアではG−rich strand(TTAGGGの繰り返しからできている鎖)は3’側に突出した一本鎖DNAとなっている。だからテロメアではG4を形成しやすい条件が存在している。この意味については次の項で述べる。

G4の構造は物理化学的にきわめて安定で、ひとたび作られると100Cの加熱によっても壊されることはない。細胞内ではこのG4を解くような酵素(ヘリカーゼ)が多種類存在している。このG4構造物の存在が核の機能に重要な役割を果たしていることが次第に明らかになってきた。その一つは転写調節である。例えばMYC遺伝子だ。そのプロモーター領域にはG4を作る配列が存在し、この配列を破壊していやるとMYCの発現は低下する。

テロメアにできるG4の役割:ATRX/DAXXはH3.3のシャペロン

前述したようにテロメアではG−rich strand、すなわちTTAGGGの繰り返しからできている鎖は3’側に突出した一本鎖DNAとなっている。この一本鎖部分はループ状の構造(t−loop)を作っている。この構造を作るのに寄与しているのがsheterinで、これによってテロメアがDNA断裂として認識されないようになっている。しかし実際にこの領域ではG4構造ができていることは、抗G4抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)によって明確に示されている

ではテロメアのG4はどのような役割を果たしているのだろうか?

その前に、ATRXがどんな働きをしいているかについてみてみよう。ATRXはSWI/SNF-like ATPaseでその機能は多岐にわたるとされるが、ここで重要な役割はATRXはDAXXと複合体を形成してヒストンH3.3分子をクロマチンに取り込む役割を果していることだ。前回述べたようにATRXとDAXXは複合体を形成している。注目するべき事実はATRXはG-quadruplex(G4)に結合することが明らかにされた。

DAXXがH3.3をクロマチンに持ち込む機能を明らかにしたのはDavid Allisのグループだ。この論文の中身はもっぱら生化学的なアプローチによるものだが、要約すると次の諸点が示された。(1) H3.3のIPで、DAXXとATRXが見出された。(2) DAXXとH3.3のコアが結合すること。(3) DAXXがH3.3のシャペロンとして働く。(4) DAXXはH3.3のテロメアへの沈着に必要である。ATRX/DAXXはテロメアへのH3.3の沈着を行っているのだ(注1)。

このように、テロメアにはG4構造が作られ、これを認識するATRXがDAXXを連れてきてそこでヒストンH3.3をクロマチンに取り込むということになる。これを支持するデータとして、ALT細胞ではテロメアクロマチン密度(ヒストンを抱えているDNA領域の密度)が低下していることが報告されている

ATRX/DAXXが機能しないとテロメアで何が起こる? 

ATRX/DAXXが機能しないとヒストンH3.3がテロメアクロマチンに取り込まれないが、そこで疑問が浮上してくる。その際、テロメア維持機能にどんな不都合が生じるのか? どのようにしてこれがDNA傷害マーカーのγ-H2AXを生じさせるのか? さらにこうした異常なテロメアの性質がどのようにしてテロメア配列での組み換え頻度を上昇させるのか?

これらの疑問に答えを出すことでALTという現象の理解につながり、ひいてはこの特異なタイプの腫瘍の治療法の開発を促すと思われる。

 

続く

 

(注1)クロマチンで最も広範に見られる普通のヒストンH3(H3.1)のクロマチンへの取り込み(=ヌクレオソーム形成)はDNA複製時のみに起こり、これには他のシャペロン(CAF−1)が介在する。ここではシャペロンをその場所に連れてくるのはPCNAだが、DAXXの場合はATRXがその役割を担うということだ。H3.3のシャペロンとしてはHIRAがよく知られている。Allisグループは別の論文でゲノム上の大部分の領域ではHIRAがシャペロンとして働くが、テロメアでのH3.3の取り込みはATRX/DAXXに依存することを示した。