メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

Covid-19の今後 (6)

前回から続く)

少しメモ、雑記の類を書いておく。

 

国民皆PCR

5月17日の日本での新規感染者数は50名となっている(東洋経済のデータによる)。同日のPCR検査数は約5,000件。ここに至ってPCR検査を増やす必要性は全く無く、むしろ有害だ。検査体制のさらなる充実は必要だがそれは中期的な話。しかしこれとても抗原検出で代替可能性がある。

 

ワクチン開発の壁

今日(5/18)はワクチン開発をめぐるニュースが飛び出してきた。開発したのは米Moderna社(Cambridge, MA)で、RNAワクチンだ。ワクチンで被験者血中に中和抗体が誘導されたと報道されている。核酸ワクチンの試みは既に10年ほど前から試みが始まっていたが、Covid-19でようやく実用化に向かって進み始めた。このModernaのワクチンでは最も楽観的な見通しとして7月から第III相試験が始まり、最短で2,021年の1-7月にFDAに認可されるという。核酸ワクチンの利点については以前のブログで紹介しているので参照されたいが、その一つは開発スピードが速いことだ。

但し、現在臨床試験に乗っているワクチン候補の試験の数は計93にのぼり、複数の候補は既に第III相に入っている。どのワクチンが競争に勝つかはわからない(注)。

ワクチンの臨床試験で最大の問題は、いかにして被験者の数を確保するかだ。今世紀に流行した最も致死性の高い感染症エボラ出血熱だ。以前のブログ記事でエボラワクチンの臨床試験の関門を書いておいた。それは1,000以上の被験者を集めた試験を”流行が終息する前に”実施することだ。実際複数のエボラのワクチン候補はこの最終段階を完了することなく、宙ぶらりんになっている。

さらにCovid-19に特有の問題として、その発症率と死亡率の低さがある。仮に1,000人からなるワクチン非接種群(対照群)の発症率が10%であるとすると、100人しか発症しない。そのうち5%が死亡すると20人しか死亡しない。その100人の発症数と20人の死亡数をワクチン接種群でどれだけ減らせるか?という試験になる。意味のある数値を出すためには一体何人の被験者を集める必要があるのだろうか? 日本国内のCovid-19の状況をみると、最初の波は終息に向かいつつある。この状況でワクチン臨床試験を国内で完遂することは当面不可能だろう(注2)。

 

BCG

さてもう一つの話題はBCGの効果だ。

これについてはCovid-19以前に既に多数の研究が発表されている。PubMedで"BCG innate immunity virus review "をキーワードで検索すると、計13報が上がってくる。そのうち"Non-spec effects of BCG vacine on viral infections"というそのものズバリの総説が出てきた。今のところ論文本体を入手できていないが、要約からヘルペスとインフルエンザに対する効果がマウス実験で確認されているようだ。

検索キーワードで"virus"を除くとウイルス感染のみならず、メラノーマなど複数のがんに対する効果が報告されている。これらはすべてBCGがinnate immunity(自然免疫)"を活性化ことによると考えられている。

Covid-19でのBCG仮説は検証される必要がある。

 

動物実験

Convid-19の研究上、大きな問題としてマウス、ラット等の齧歯類が使えないことがある。これらの種にSARS-CoV-2が感染が起こらないのだ(注3)。これはひとえにウイルスのスパイク(S)タンパクがこれらの種のレセプター(ADE2タンパク)に親和性を持たないことで説明される。世界の研究者はこの問題を解決するために遺伝子改変マウスの開発を進めている。当然これには時間がかかる。Science誌に簡潔な記事がある。

 

関連ウイルスが潜伏している?

ここから先は口コミ情報、またはさほど信頼性の高くない話。

Covid-19については”普通の風邪”であると主張している医師がいること。これは日本の話。

もう一つは私の周囲(テネシー州メンフィス市)に今年初め(一月)にCovid-19に似た症状を発症した人がいた。この時点では当然米国内にはCovid-19は存在していないことになっている。しかし彼の周囲に同様の症状を示した人が複数いたという(クラスター?)。さらにロスアンゼルス地域でもそうした奇妙な風邪が流行していたという。

こうした話の真偽はわからない。しかしもしCovid-19に関連した先行ウイルスがあったとすれば、これはCovid-19の全体像の把握に大きな影響を与える。科学的発見は思わぬ形で現れることがあるので注視していきたい。

(続く)

 

(注)臨床試験コンパイルした米政府(FDA)のサイト(ClinicalTrial.gov)があり、ここでキーワードを入力すれば進行中および終了した臨床試験が検索できる。

(注2)臨床試験の被験者集めは新薬開発におけるボトルネックとして認識されている。新薬候補の数が多すぎるのだ。最近ネットで見た宣伝に、”英国で臨床試験のボランティアに参加しませんか?”というのがあったが、これなどは被験者を集めるための策であろう。

(注3)これついては武漢のNature論文を参照されたい。