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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

Gene driveの無力化

Gene driveはエディティングから派生した技術で、その遺伝子を持った個体から生まれた仔の全て(100%)が導入された遺伝子を持つようにデザインされた方法だ。その概略は以前本ブログで模式図とともに概説した。これはわずか一年ちょっと前のことだ。

私はそのときジーン・ドライブのことを”最終兵器”と呼んだ。しかし最終兵器にも耐性虫が出てくるようだ。ネイチャー2月2日号にイタリアに本拠を置く非営利団体Target Malaria(注1)にあるハマダラカ(Anopheles gambiae =マラリアの媒介カの中で最重要な種)の飼育施設で耐性のカが出現していることがわかった。

主な耐性獲得機構は、CRISPR/Cas9によって当該アレルが切断された後にその箇所に幾つかのヌクレオチドが挿入され、そのことにより元の配列配列とは異なったものができるので、CRISPR/Cas9でもはや切断されなくなるというものだ。

もうひとつの問題は野外で捕獲したハマダラカの著しい遺伝的多様性だ。このためCRISPR/Cas9によるターゲティングが一部のカにしか効果がないというものだ。こうした問題を解決するために、研究者は同時に複数の遺伝子を標的にする、ないしは一つの遺伝子内の複数の箇所を標的にする方法を考えている。これは抗がん剤の併用療法に見られるように、一般的に複数の標的に作用するやり方は耐性の出現を抑制することができる。

もう一つの手は多数の野外のカの個体についてそのゲノム配列を調べて、可能な限り広い範囲で共通の配列を見出して、それを標的にしようとするものだ。これはいずれも理にかなったやり方だ。さらにこの記事では詳細が記載されていないが、次世代のジーン・ドライブを投入することも検討されているという。

前回も書いたように、ジーン・ドライブに対する懸念の最大のものは、放出した改変型のカが野外で野生型に完全に置き換わってしまうこと、さらにこれらによって予期せぬ出来事が起こってしまうことであった。”ジュラシック・パーク”に描かれているような不測の事態のことだが、、。

しかし現在研究者たちは、ジーン・ドライブはただ単に効果が発揮できないのではないか、要するにハズレの技術ではないかと危惧するようになっている。

今回話題にした方法は改変型昆虫放飼法に含まれる。この方法には別の大きな問題があることも指摘しておきたい。今回Target Malariaが対象にしているカはA. gambiaeだが、この組織は他の二種のカについても同様の手法で駆除しようとしている。問題の一つは、アフリカのような大陸でこのような手法が有効である保証が全くないことだ。この点についても前回の記事で指摘した。さらにマラリアを媒介するカは全部で60種程度存在することが強く推定されている。ある地域で駆除に成功したと思っても、すぐに周辺から同じ種、あるいは異なる種の侵入を許すのではないかという可能性がある。

 

(注1)この団体は大学をベースに、ジーン・ドライブで作出された改変型のカを大量に生産し、アフリカの三ヶ国(ウガンダ、マリ、ブルキナファソ)で野外試験を行うことを計画している。ビル・ゲイツ財団を始めとする多数の欧米の団体が援助している。