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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

リオデジャネイロの熱帯雨林再生:ジャガーネコで決まり?

もうすぐリオデジャネイロ・オリンピックだ。

ジカ熱に対する危惧とかロシア陸上チームのドーピング問題など、あまり競技そのものではないことばかりがニュースになっている。いずれもネガティブな話題だ。たぶんタイミングを合わせたのだと思うが、先々週号のScienceにリオデジャネイロ熱帯雨林”再生”の話が出ていた。こちらは明るい話題だ。

ここで再生というのは”動物叢の再生”(refaunation)のことだ。話題となっている熱帯雨林は巨大なリオデジャネイロ大都市圏の辺縁部、世界的によく知られているあの巨大なキリスト像がある森林である。ここはTijuca国立公園になっている。(Tijucaというのはポルトガル語では”チジューカ”というふうに発音するとブラジル人に教わった。ポルトガル語の発音は難しい。)このTijucaを含むブラジルの大西洋岸はかつては一面の熱帯雨林であった。このTijucaの動物叢を最初に記載したのは他ならぬチャールズ・ダーウィンだ。これは1,832年のことだ。

リオの人口増と開発にともなってこのTijucaの森林が破壊された。このため水の供給に支障をきたすまでになる。そこで精力的な植林が1,860年代に始められた。このときはもともとあった樹種と外来のものが導入された。こうした努力によって植物叢の再生には”外見上は”成功した。だが動物叢は戻ってこなかった。Tijucaのある場所は周囲がリオの郊外の市街地に取り囲まれているので、近隣の森林からは隔離されている。だから動物叢を復活させるためには動物個体そのものをここに持ち込んでやる必要があったのだ。動物は植物の種子を運ぶので、森林が健全に保たれるためには重要な存在なのだ。さらに捕食~被食関係の最上位の肉食獣の存在も生態系の維持のためには大変重要である。だからここでの動物の再野生化は絶滅危惧を対象としているわけではなく、基本的には普通に見られる動物種を再導入しようとしているのだ。

この動物叢再生プロジェクトは、ただ単に人々に愛されている公園を再生するだけではない。これは壮大な生態学的な実験であると関係者は認識している。最初に持ち込まれたのは、種子の運搬者として高い能力を持っているagoutiである。agoutiとはテンジクネズミ、すなわちモルモットの類のようだ。次の段階はより大型の哺乳類だ。今年になって最初のホエザル(howler monkey, genus Alouatta)が導入された。ホエザルはダーウィンがこの場所で記載している動物種だ。彼らは樹冠に棲んでいるので、さらに種子を広く拡散させることができる。これまでに4頭が導入されたが、このホエザルからは子ザルが生まれていることが確認された。ここで子ザルが生まれたのは1世紀以上ぶりのことだ。さらに10頭のホエザルを導入したのちに、ゴールデン・ライオン・タマリン(Leontopithecus rosalia)を再導入する予定にしている。これは絶滅危惧種だが、やはり種子を拡散する高い能力を持っている。この種はこのプロジェクトとしては例外的に絶滅危惧種だが、このあたりの動物叢のシンボル的存在と考えられているらしい。

以前イエローストーン国立公園へのオオカミの再導入のプロジェクトについて言及した。導入後に問題となったのは、このオオカミによる家畜への被害であった。このTijucaにも以前は大型獣であるジャガーやバクがいたようだ。しかしこれらの動物は近隣住民にとの関係で、やはり再導入はためらわれている。そのかわり、ジャガーより小型のネコ科動物のジャガーネコ(Oncilla, Leopardus tigrinus)が肉食獣の候補として上がっている。当然これらの肉食獣の導入は、それらが捕食する動物種が十分に再生された後のこととなる。だからこの動物叢の復活は数多くの手順を踏んだ、長期にわたるプロジェクトになる。

ここでの重要なメッセージは、”完全な生態系とは、単に植物叢だけではなく動物叢も完全な形で保たれたシステムである”ということだ。このことは生物叢の再生に取り組む専門家からたびたび強調されることだ。私も、この流れの話題を過去に取り上げている。以下をお読みいただきたい。

⒈ "How to lone a mammoth?"

⒉ "Bring back the aurochs"

 

追記 8/3/16

大型哺乳類の種子拡散能力については、4月に日本のグループからCurrent Biologyに出された論文が興味深い。 ここでは温暖化から植物が逃れるためにはより寒冷な地域に植物が移動する必要がある。この際、垂直移動は距離に比してより大きな温度変化が稼げる。要するに、山に登ると寒くなるわけだ。こうした垂直移動での種子の運搬者として、ツキノワグマが高い能力を有していることをデータで示している。注目するべきは、こうしたツキノワグマの能力はより小型の動物であるテンよりも高かったというのだ。

大型哺乳動物が生態系維持に寄与しているれいであると考えられる。