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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

キリンは4種

前に”北米のオオカミは1種のみ”という記事を書いた。最近よく見られることに、ゲノムシークエンスの結果、種の記載が訂正される。その結果、絶滅危惧種への対策が変更されるという事態があるという趣旨で書いた。関連する話としては”オランウータンの話”も参照されたい。

今回の話はキリンだ。キリンの分類は1種(Giraffa camelopardalis)9亜種ということになっていたらしい。しかしこの亜種の数については複数の説があってゲノム配列の決定が待たれていた。ナミビアにあるGiraffe Conservation Foundationはアフリカ各地のキリン190個体の皮膚サンプルを採取した。Senckenberg Biodiversity and Climate Research CenterとGoethe University(ともに独フランクフルト)はこれらキリン個体のDNAを解析した。ミトコンドリアだけはなく核DNA分析にによるキリンの系統の解明は初めてのこととなる。この分析の結果、G. camelopardalisは実際には4つの独立した種から構成されていることが判明した。これらの種は125万年前から200万年前に分岐したものと推定された。これはかなり最近のことだ(注1)。キリンの移動能力の高さを考えると、異なる種の存在は研究者を驚かせている。地理的隔離が種分化には必須の条件だからだ。現在キリンの全個体数は約90,000頭とされているが、このうちの一つの種は個体数が約5,000頭にとどまり、種の保全としては一挙に警戒領域に入ってしまったといえる(注3)。

何度も書いてきたが、シークエンシングのイノベーションにより、医学生物系のあらゆる学問分野がその姿を変えつつある。そのうち最も進歩が著しいのが生物分類学と、それに基づいた生態学、進化学である(注2)。先回紹介した北米のオオカミの場合にはアメリカアカオオカミが独立種ではないことが判明した。そこでこれに対する特別な保護策が不要なのではないかという議論が起こってきた。一方今回のキリンでは一つの種の個体数が予想外に少ないことが判明したので、これに対しては特別な保護策を検討する必要があるということだ。

既に実施されている政策の変更は面倒だが、科学的に妥当な策を取ることが求められる。

余談になるが、キリンの長い頸は7個の椎骨(頚椎)で構成されていて、これは全ての哺乳動物で同じだ。ところが恐竜の骨格標本を見ると、より多数の椎骨で構成されているものがあって、爬虫類の頚椎の数にはバリエーションがあったことが解る。哺乳類の前身(単弓類?)は7頚椎だったのだろう。当然個々のキリンの頚椎の高さはヒトなどのものよりずっと高い。そのことを知ったのは日獣大(現日本獣医生命科学大)にあったキリンの骨格標本を見たときだ。

(注1)参考として、ヒトとチンパンジーは約500万年前に分岐した(遺伝研のページによる)。ヒトとネアンデルタール人は35−40万年前に分岐したとされる。後者の組み合わせでは交雑が起こったことがゲノム解析で示されている。キリンの場合は種分化としてはかなり最近の出来事のようだ。

(注2)さらにこれによる新領域として古遺伝学(paleogenetics)が成立した。生物系以外では、歴史学、考古学にも大きな進歩をもたらした。

(注3)元の論文中にはこの5,000頭という記述はなく、表中の各種、各亜種の個体数を足し合わせても5,000という数字は出て来ない。ただし、ニジェール付近の亜種、G. c. peraltaは僅か400頭で孤立しているので対策が必要であると述べている。