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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

ワシントンDCサミット(The 2015 NAS Summit)で話し合われたこと

前々回ワシントン会議と書いたが、ワシントン軍縮会議が有名なのでワシントンDCサミットと書くことにする。(正式名称はThe International Summit on Human Gene Editing)

先々週開催されたこのサミットの模様がNatureとScienceの両方に掲載された [1, 2]。前にも述べた通り、この会議は40年前のアシロマ会議を想起させる。このときの会議はポール・バーグ(Paul Berg)により主導され、当時組み換えDNA実験を始めた主だった研究者がカリフォルニアのアシロマ会議場に会したのだ。そこでは組み換えDNA実験の実施にあったっての指針を策定することが大きな目標であり、シドニー・ブレンナーの提唱により生物学的封じ込めによる指針が作られた。これは大腸菌が環境中で生存する能力の低いものを用いることにより、より危険度の高い遺伝子の組み換え体が環境中で生存し続けることを防ごうとしたのである。このようにアシロマでは具体的な指針(ガイドライン)の策定にこぎつけた。

さて今回のヒトゲノム改変サミットの結果、何が議論され、何が具体的成果として残されたか?

このサミットに参加したのは約500人の研究者、科学倫理の専門家、臨床家、法律家などで20ヵ国以上の国から参加をみた。最も盛んに議論されたのは予想されたとおり、ヒトの胚細胞のゲノム改変の是非、およびそれから妊娠にもっていくことの是非であった。

全体のコンセンサスとしては、胚細胞のゲノム改変を行い、それを培養器中で実験することは許容するが、さらにこれを子宮内に移すことについては無期限に停止することが妥当であるというものだった。

後者については仮に将来的に実施することが容認されたとしても、それは遺伝病の原因遺伝子の校正に限るべきであるとする。しかしそれについても、遺伝子改変以外の方法がないわけではないという意見も出された。

さらに治療目的以外の遺伝子改変、すなわちデザイナー・ベビーのような試みについては、それが新たな社会的な不平等をもたらす可能性が高いので、より慎重に取り扱うべきであるとする意見が多数を占めた。

一方、 治療目的での患者の組織、細胞(体細胞)への遺伝子改変は、より積極的に行うべきでるとする意見が多かった。

前々回に指摘しておいたが、国によって法規が異なる可能性についても議論された。すでに中国やドイツでは改変されたヒト胚を子宮に移して胎児を成長させる実験は法律で禁止されている。ドイツではこれを破った場合、その行為者は収監される。一方、米国ではこうした実験に対しては、NIHなどからの公的資金の助成が行われないが、民間の機関が自らの資金(または募った資金)で改変胚から胎児を育てることは禁止されているわけではない。

今回のサミットでは具体的な指針が策定されたわけではない。むしろ堂々巡りの議論が展開されたという。しかしこの会議の主導者は、この種の会議が初めて行われたことに意義があり、今後こうした議論を継続して行うことが重要であるという。

おそらくこの会議が行われたことにより、ヒト胚の改変、あるいはその胚による妊娠、出産という試みにはある程度ブレーキがかかると思われる。

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