メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

免疫チェックポイント療法ががんを増悪させるケース

最新号ネイチャーに抗PD−1療法ががんの進行を速めるケースのあることが紹介されている。これでは最近Clinical Caner Researchに発表された二つの論文の内容が述べられる[1, 2]。 免疫チェックポイント療法は全体の20%程の患者に対して著効を示し、がんを"治…

ジカとデング、交叉免疫

フラビウイルス属ウイルスによる感染症は潜行と浮上を繰り返してきた。ごく最近の大きな問題はジカ熱だ。さらに少し前に日本で問題となったのはデング熱だ。 このウイルス群の研究は黄熱以来の長い歴史があって、感染様式、病理発生、免疫・感染防御など、重…

NIH予算の削減

トランプが科学予算の原案を出してきたが、今のところは大統領が勝手に提案しているところで、これからの議会とのやり取りの後に最終的な形をとることになる。 NIH予算について3月29日に、議会公聴会でトム・プライス(Tom Price)保健福祉長官が議員らの質…

テロメア維持の機構(7):ALT細胞のテロメアではBIRが起こっている

(前回から続く) 前回はヒト細胞でBIR(break-induced replication)と呼ばれるHRの一形態が実際に働いていることを述べた。そこでBIRの様子を図示したので再び参照されたい。 超絶FISHによるBIRの検出 このBIRがテロメラーゼ非依存性テロメア維持(ALT)で…

トランプ科学予算の概要

トランプ大統領の予算案の概要が明らかとなった。この2,018年度予算は来年の10月から開始されるもので、議会は今年末までこの予算案の可決はしない方針というが、とりあえずそこでの科学関連予算についてまとめておく。 一つ大きな原則があるが、それは地球…

テロメア維持の機構:(6)ALT細胞のテロメアの組み換えメカニズム、BIR?

(だいぶ間が開いたが前回より続く) テロメアの話を進める。このシリーズの最初に述べたことを思い出したい。 ”がんで認められるテロメア維持の機構(telomere maintenance mechanisms, TMM)が確定したようなのでまとめたい。”と私は書いている。これは昨…

21世紀の麻疹

先週ジョンズ・ホプキンス大学のDiane Griffinの講演があった。タイトルは”Understanding Measles in the 21th Century”だ。 話は1,846年のフェロー諸島での観察記録から始まった。Peter Panumという医師がこの諸島での麻疹(measles)の発生を注意深く観察…

言語と生物種

先週ケニヤ人が加わった。これで研究部の中にスワヒリ語話者が3人になった。国名でいうとケニヤとルワンダだ。この人たちは皆自分のことをスワヒリ語を話すというが、お互いのスワヒリ語は相当違うという。 同じ階にはたくさんのインド人も働いている。しか…

まずは一安心か?:H7N9トリインフルエンザ

前日のトリインフルエンザの続報がUSDA APHISサイトに出た。 全ゲノム配列を決定した結果、このウイルスはH7N9と同定された。しかし中国でヒトへの感染を起こしている系統とは異なり、北米の野鳥に生息している系統であることがわかった。中国から北極経由…

米国での新型トリインフルエンザ(H7N?)の発生

本日、テネシー州の養鶏場でトリインフルエンザが発生し、約7万4千羽が処分されたというニュースが流された。APHIS(農務省の動植物防疫部門)のページに過不足ない記事が出ている。 この養鶏場はテネシー州南部リンカン郡に所在し、大手食肉流通のタイソン…

ZIKAウイルスのmRNAワクチン:小頭症が防げるか?

予想した通り、ZIKAウイルス(ZIKV)に対するmRNAワクチンの論文がCell最新号に上がってきた。 核酸ワクチンの利点については既に広く認識されている。Cell最新号にZIKVの感染防御抗原をコードする遺伝子をmRNAしたワクチンが、ワシントン大学(Washington U…

ヒト胚エディティングへの”黄信号”

米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)と米国医学研究所(National Academy of Medicine)は、後の世代に伝わるようなゲノムエディティングについて、将来的には認めるという結論を出した。2,015年の暮れに召集された2,015ワシントンサミット…

Gene driveの無力化

Gene driveはエディティングから派生した技術で、その遺伝子を持った個体から生まれた仔の全て(100%)が導入された遺伝子を持つようにデザインされた方法だ。その概略は以前本ブログで模式図とともに概説した。これはわずか一年ちょっと前のことだ。 私は…

ヒト-有蹄類キメラの作出:最初の試みの中身と背景

昨年移植用臓器のソースとしてヒト-有蹄類のキメラの可能性を探るような研究が計画されていることを書いた。昨年夏こうした研究に対する米連邦政府機関からの研究補助金の交付にゴーサインが出た。 先月のセルにこの流れの仕事では初めての論文が出た。タイ…

H7N9、スペイン風邪(1,918年)以来の脅威? 

タイトルがやや刺激的だが、もう一つの新型トリインフルエンザのことだ。 野鳥の渡りのためトリインフルエンザウイルスが伝搬されることを書いた。温帯地方からウイルスが北極圏に北上し、さらにそこから別の温帯地方にウイルスが南下するという形をとる。し…

各国のGM事情

GM(遺伝子組み換え)作物(動物)が安全であるためにはどこまでの証拠が必要か? "Genetic divide"という小さな囲み記事がサイエンス2月10日号に出ている。これはすごく大雑把だがGMOに対する各国の考え方がまとめられていてとても良い。 最初に冒頭の問い…

グリズリーはなぜ列車にはねられるのか?

NBAメンフィス・グリズリーズ(Memphis Grizzlies)はなぜグリズリーズなのか? テネシー州西部は平原でグリズリーはいない。答えは簡単で、元のバンクーバー・グリズリーズが移転してきたからだ。今のグリズリーズはそこそこ強いチームだが、カナダ時代の成…

がん研究での再現性の大問題

先々週はトランプ氏が新大統領に就任したので一般のメディアは無論これがトップニュースだった。しかしがん研究者にとってはeLifeに出た"Reproducibility in cancer bilogy: Making sense of replications"が無視できない。 再現率は2/5 がん研究の再現性…

野球選手の時差ボケ

野球選手の時差ボケの研究がPNASに載っている。 よく知られているように、飛行機で東に移動するときと、西に移動するときとでは時差ボケの程度が違う。野球選手に与える時差ボケの影響も、西から東に移動する場合のほうが影響が大きくて、プレーのレベルが低…

寿司ネタの半分が間違った名前で出されている

これはおもしろいニュースだ。ロスアンジェルス(LA)の寿司レストランで出されている寿司のネタの名前が半分ほどが正しくなかったという話。 これはUCLAなどの研究者によって行われた研究でJournal of Conservation Biologyに発表された。代表者はPaul Barb…

象牙取引停止への中国政府の決意

中国政府は2,017年末までに国内での象牙の取引の中止を達成することを約束した。当然この決定は自然保護主義者たちに好意的に受け入れられている。年々相当な勢いでアフリカゾウが密漁されているが(年間20,000頭という)、この対策はアフリカゾウ保護におけ…

2,017年はゲノムシークエンシングが爆発する?

昨年末、サイエンス誌に昨年(2,016年)発表された最大の科学的発見が掲載された。それは”重力波の観測”だったが、別記事でそれに次ぐ9つの業績も出された。この中には京大グループによる”受精能を持ったマウス卵子のin vitroでの作成”などが含まれている。…

テロメア維持の機構:(5)テロメア姉妹染色分体交換(T-SCE)

(前回から続く) T−SCEに限らず、テロメアという特異なゲノム領域を追求する手法には研究者の知恵が込められている。テロメア姉妹染色分体交換(telomere sister-crhomatid exchange、T-SCE)について少し考察したい。 生細胞中のゲノム変異を追求する方法 …

ジフテリア治療薬の枯渇

昨日号のサイエンス誌に"Life-saving diphtheria drug is running out: Two children's deaths in Europe spur search for new sources of antitoxin"という記事が出ている。欧州でジフテリア抗毒素血清の不在によって子どもが死亡したという事例だ。 先進国…

ドランプ政権下でのFDAの行方

ネイチャー最新号(新年の最初の号)にトランプ新政権下での食品医薬品行政の変更の可能性についての記事が出ている。 食品医薬品行政で問題になるのは、例えばゲノム・エディティングによって作出された家畜の新品種の承認の可否であるとか、幹細胞技術の臨…

NBAと大学のサラリーキャップ

米国のメージャースポーツでは各リーグに所属しているチーム間の戦力均衡を図るために、所属選手の年棒総額に上限を設けていることが多い。 その典型的な例がNBA(National Basketball Association)だ。一昨年のリーグチャンピオンシップの覇者、ゴールデン…

テロメア維持の機構:(4)ATRXはテロメアDNA複製を”助ける”?

(前回からの続き) すでに繰り返し書いたようにALTの腫瘍では正常なATRXタンパクが発現していない。ALT細胞株にATRXタンパクを強制発現すると、ALTの諸性状が消失することは前回述べた。 同じような状況でのテロメア長の変化についてはRichard Gibbonsのグ…

テロメア維持の機構:(3)ATRXの働き

(前回から続く) テロメアではG4が形成される G-quadruplex(G4)というのは4個のグアニン塩基が同一平面上に配置した構造。ふつう二本鎖DNAが形成されるときに働くのはワトソン・クリック型塩基対だが、G4の場合はフーグスティーン型塩基対(Hoogsteen bas…

マイク・ホンダの引退

2,016年は各国で政治が動いた年だ。大統領選挙に加えて上下両院議員の選挙も行われた。 最近のサイエンス誌にマイク・ホンダの議会からの引退が報じられている。ホンダは日本ではいわゆる従軍慰安婦問題で日本を糾弾する急先鋒として知られているが、ここで…

テロメア維持の機構:(2)ATRXの失活がALTを引き起こす

(前回からの続き) ALT細胞はATRXまたはDAXX遺伝子の変異を持つ ALTを抑制している遺伝子は何か? この疑問に対するヒントは膵神経内分泌腫瘍(PanNET)という稀な腫瘍の解析から得られた。ジョンズ・ホプキンス大学のグループはPanNETではATRXまたはDAXXの…