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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

”画期的な”研究費配分新方式?

米国と欧州の二人の研究者が研究費配分の新方式を提唱している

今や欧州でも米国でも、研究者にとって研究費獲得はたいへんな重荷だ。米NIHグラントの採択率は、2,003年の30%から2,016年の19.1%にまで低下している。欧州でも若手研究者の研究開始のためのグラント(European Council Starting Grants)の採択率はわずか11.3%だ。オランダ国内の若手研究者へのグラントも14%まで低下している。

このためグラントを獲得できない研究者は申請作業を延々と続ける羽目になる。一方、この状況のためにトータルの申請件数が増えることになり、当局の審査の手間、人手、費用もばかにならない。欧州の試算では4,000万ユーロのグラントを審査・交付するための費用が950万ユーロに上るとなっている。審査に動員される研究者の時間コストも無視できない。

こうした状況を打破するために、SOFAと称される研究費配分法が2,014年に提案された。これは"Self-organized fund allocation"の略だが、最初に提唱したのはインディアナ大学Johan Bollenというコンピュータ科学者で、その後オランダのMarten Schefferがこれを支持している。その配分方法はシンプルで、すべての研究者は一律の分配金を受けとる。そしてそのうちの一定割合をその研究者が重要視、ないしは尊重している研究者に”寄付”するというものだ。

具体的にBollenはこの一律の金額を米国で10万ドル、欧州で3万ユーロに設定している。Bollenはこの”寄付”の部分を50%とした条件でシミュレーションを試みている。”寄付”する際の基準として、個々の研究者が書いた論文の巻末で引用した回数に応じて寄付を受け取る研究者とその金額を決定した。結果は面白いことに、現行審査システムでグラント配分を受けている研究者が多額の”寄付金”を受け取るという結果となった。したがって、この方式でも研究費配分における不都合は基本的に生じない。

この方式だと研究者は申請書を書く必要がなく、また審査に投じてきた膨大な労力と費用も大幅に削減できる。まさに”画期的な”研究費配分法で、どこから見ても万々歳ではないか、といいたいところだがこの方法にも大きな欠点がある。その第一は、この寄付の受け取り者として友人をリストアップするケースが頻発するというものだ。これは大いにあり得る。特に研究者コミュニティーが小さいときには大きな問題となる。日本では学閥などが問題となると思う。これについてBollenは、アルゴリズムを作ることでこの”友達関係”に基づいた指名をある程度避けることができると主張している。もうひとつはこの方式だとどうしても過去の実績がものをいう。新規に始めるプロジェクトの評価が困難だ。

 

最近研究費を巡る話題を書く頻度が高くなっているが、これは理由のないことではない。研究費の総額もさることながら、その審査、配分方法がその国(地域)の研究の活力を決定づけるからだ。NIHグラントの審査方式は世界の研究における米国の主導的地位の確立に大きく寄与してきたと評価されている。しかし研究総予算の頭打ちの状況が続く中で、この方式の欠点も顕在化してきたように思う。

NIHグラントのうち特に標準的な種目であるR01グラントについて少し考察してみたい。これは全米の大学や研究機関(アカデミア)の教員、研究者が独立した研究室を運営するために獲得することが要求されるグラントだ。その規模は30−40万ドルで4年ないし5年間支給される。アカデミアに研究職員(faculty)として採用されたら、この後4年間程度(機関により異なる)の間にR01を獲得することが要求される。これに失敗するといずれそのポジションから去らねばならない。このR01グラントを獲得することによって一人前の代表研究者(principal investigator、PI)として扱われる。

R01グラントの規模は複数のスタッフを雇うのに十分な金額で、さらに”間接経費”があるので研究機関の意向から独立した研究が営める。そのためR01を持っている研究者は別の研究機関に移ることも比較的容易だ。

一方、審査の方式もかなりの程度に公平性が図られている。グラント審査にはNIH外部の相当な数の研究者が審査員として動員され、いわゆる”縁故”による審査が極力排除されるようになっている。

こうしたグラントシステムが米国の医学生物学研究を強くしたことは多くの人々の認めるところだ。

ここであえてこの米国方式をグラント/PIシステムと呼ぶと、正にこのグラント/PIシステムこそが20世紀後半の米国の一強状態を作り出した源だといえる。しかし現在ではどうか? 論文一報当たりの引用件数では米国は英国についで二位となっている。このシステムは絶対ではないのだ。