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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

NIH予算は予期しない経済効果をもたらす?

しばらく前に2,018年度のトランプ科学予算について書いた。その際NIHグラントが経済に及ぼす”多少の”寄与について私見を述べた。基礎研究に対する公的資金の投入はどの程度の経済効果をもたらすのだろうか? 昨年ノーベル医学生理学賞を受けた大隅良典のオートファジーの研究のような、きわめて萌芽的研究についてその経済への影響を分析することは大変困難だと思う。私が最近述べたような要素もおそらくある程度正しいと思う。しかしこういう経済効果を数値として分析することは可能なのだろうか?

先週出たサイエンスの論文(report)では、NIHグラントの持つ経済に対する正の効果について分析がなされている。ここでは特許出願件数を客観的な指標として用いている。これについては同じ週のネイチャーに短い紹介記事が載っていて、私もこちらのほうにに先に気がついた。あまり時間のない人はこちらの記事で十分である。

これはハーバード、MIT、コロンビアの各大学に所属する研究者計3名によって行われた研究だ。このうち2名は全米経済研究所(National Bureau of Economic Research, NBER)という組織にも所属している(注1)。所属機関から考えて、この研究はレッキとした経済学分野の研究だと思われる。

1,980年から2,007年にかけて交付されたNIHグラント、365,000件について調査したところ、交付を受けた研究が直接特許出願に結びついたのは8.4%であった。これはたいした率ではないように思える。しかし特許申請全体で引用されている文献のうちNIHグラントによって実施されたものは約30%に上る。これらの引用は当該特許の理論的根拠を示すためになされたものと思われる。したがって、NIHグラントに援助された研究の特許への寄与率はかなり高い。興味深いことに、この特許への寄与率においては”基礎研究”と”応用研究”に差は見出されなかった。

以上の結果から、NIHグラントは事実上経済を押し上げる効果を持っていると考えられる。要するにNIHグラントは”公共事業”の性格を持っているというわけだ。

ただし、グラントの承認から特許申請までにはタイムラグがある。これは一概に何年というわけにはゆかないが、特許件数で見る限り、トランプ氏が在任中(4年間)には予算の(負の)効果が明瞭にならないだろう。トランプの目標は再選なので、この選択は合理的である。

 

(注1)NBERというのは民間の非営利シンクタンクだが、何と全米の大学教員の1,000人以上が所属している。この中には米国のノーベル経済学賞受賞者20名が含まれている。本部はマサチューセッツ州ケンブリッジ、すなわちハーバードやMITのキャンパスがあるボストンの隣街にある。