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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

トランプ科学予算の概要

トランプ大統領の予算案の概要が明らかとなった。この2,018年度予算は来年の10月から開始されるもので、議会は今年末までこの予算案の可決はしない方針というが、とりあえずそこでの科学関連予算についてまとめておく。

一つ大きな原則があるが、それは地球温暖化に関わる調査・研究予算が徹底的に削られていることだ。これにはEPA環境保護庁)、DOE(エネルギー省)、NOAA(海洋大気庁)、NASA(航空宇宙局)、ARPA-E(Advanced Research Projects Agency-Energy)、USGS(地質調査所)の該当する部分が含まれる。温暖化への化石燃料の寄与を否定しているので、代替エネルギー開発の研究予算も当然抑制されている。

NIH(National Institutes of Health)予算には全米の医学生物系研究プロジェクトへ交付されるグラントが含まれるので、NIHへの予算カットは国の医学生物系研究全般に大きな影響を与える。予算案では58億ドル(18%、約6,500億円)の削減となっている。実はこの金額は2,016年度にNIHが交付しているグラントのうちいわゆる”間接経費(indirect costs、overhead payments)”と呼ばれる費目の総額とほぼ一致している。”間接経費”とは各研究者に交付される予算(直接経費)の他に、大学等の研究機関に支払われる経費のことだ。これは研究機関の運営費の補助、あるいは共用の施設(動物施設など)の費用として使われる。大学関係者はこのNIH予算の削減が、間接経費削減による大学の運営費の不足につながるのではないかと危惧している

しかしNIH予算に関しては、NIH内部ではより強い危機感を募らせている。それはトランプ政権がNIHに包含される全27部局の再編を進める方向性を打ち出しているからだ。再編とは統廃合であり、これはNIHの総予算削減を目論んだものであろう。

米国の科学研究を財政的にサポートしているもう一つの機関がNSF(Nationa Science Foundation)だ。今回の予算案ではこのNSFの予算がどのように位置付けられているかは不明だ。その理由はNSFが閣僚レベルで扱われる組織ではない(日本的にいうと省庁以下)ので、実際の金額が表に出ていないからだ。しかしNSFの今年度予算は294億ドル(約3兆3千億円)となっており、これは十分規模の大きい予算規模だ。これについてはやがて詳細が明らかにされるだろう。

いずれにしても、トランプ政権(トランプ氏)の科学に対する無理解がこうした予算案に反映されていると考えられる。どうやら今の政権(というより大統領本人)にとって、最重要課題は3年半後に再選されることで、10年後の競争力ではないということらしい。確かに伝統的に共和党政権は研究政策は消極的だったが、今回は極端だ。

 

以下、私が思っていたこと。

確かに研究予算は直接的にGDPを増やすようなものではない。しかし米国から出される研究論文は世界中の研究への影響力が大きい。例えば、シグマの試薬やイルミナのシークエンサーなどは、米国発の論文に記載されることによって世界中の研究機関で同じようなものが購入される。いわばグラント予算を国内で消費することによって、それを補うような製品輸出が促されている。そこでは米国のトップの研究者が論文に記載することが、最大の宣伝効果となるのだ。公的な研究予算が間接的に国内経済を潤しているわけだ。いわば公共事業の”乗数効果”のような現象が見られるように思う(注1)。しかし米国の研究が世界のトップの地位を失えば、この乗数効果は消失してただのバラマキ予算になる。

 

(注1)こうした科学研究グラントの波及効果に関する定量的な分析が実際にあるのかどうか、それを確定的にいうだけの情報は今のところ持っていない。