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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

テロメア維持の機構:(6)ALT細胞のテロメアの組み換えメカニズム、BIR?

(だいぶ間が開いたが前回より続く) 

テロメアの話を進める。このシリーズの最初に述べたことを思い出したい。

”がんで認められるテロメア維持の機構(telomere maintenance mechanisms, TMM)が確定したようなのでまとめたい。”と私は書いている。これは昨年後半にSarantis Gagos(Biomedical Research Foundation of the Academy of Athens)、Thomas Halazonetis(University of Geneva)とRoger Greenberg(University of Pennsylvania)の両グループから、ALT細胞のテロメア維持の機構に関する独立した論文が出されたからこのように書いた【1, 2】。

テロメラーゼに依存しないテロメアの維持の仕組み(alternative lengthening of telomere、ALT)が、相同組み換え(homologous recombination、HR)を用いていることは既に述べた(注1)。上記二つの論文ではBreak-induced replication(BIR)と呼ばれる機構が働いているとするデータを提出している。これはHRの一つのタイプだ。

BIR:HRの一形態

HRの機構は動物細胞に先駆けて出芽酵母(budding yeast、Saccharomyces cerevisiae)で盛んに解析された。酵母のHRの機構の多くの部分はJames Haber(Brandeis University)らによって明らかにされたが、その中にはBIRの機構解明も含まれている。これを簡単に要約すると、染色体上のある地点でDNA切断が生じたときに、そこから塩基配列を共有する染色体(または染色分体)を鋳型としてDNA複製が行われる。この複製は数百kbの長さに及ぶこともある。下の図は複製前のDNA上に一本鎖切断があり、そこに複製フォークが到達した時に起こることを示している。これはBIRが起こる一つの典型的な場合だ。この図はHastingsらの総説から借りてきた。

f:id:akirainoue52:20170324114931j:plain一体どのような状況でBIRが発動するのか? 通常の二本鎖DNA断裂では断裂点の上流、下流の両側に相同配列を持った鋳型鎖が存在する。しかし場合によって片側にしか相同配列が見いだせないことがある。DNA複製フォークで生じる片側(one-ended)二本鎖断裂はこうしたケースである(上図)。複製フォークの下流には未だ複製されてない二本鎖DNAが一本だけ存在するので両側の相同配列を鋳型にできないのだ。

BIRは断裂したDNAの3'末端が傷ついていない二本鎖DNAに入り込んでDループ(D−loop)を形成することで開始する(D)(注2)。このDループの中で逆向きの複製も開始される(破線矢印)。これは複製フォークそのもので、リーディング鎖、ラギング鎖の双方の新生鎖の伸長が起こる。この構造はやがて解消される(F)。しかし再び3’末端の侵入が起こって以上の過程が繰り返される(G、H)。最終的にこの複製の中間体が分かれて完全な二本鎖となる(I)。こうした複製は長いサイズで起こり、多くは染色体の末端(すなわちテロメア末端)まで至る。このモデルでは修復終了後では、一方の染色分体(これは二本鎖)の両方の鎖が新たに合成されたものとなり(図では上の鎖(破線))、他方は合成されていない(実線)。このような複製の様子は"conservative replication"と呼ばれている。

哺乳動物細胞でのBIR

哺乳動物細胞においては最近までBIRの確たる証拠は最近まで得られてなかった。しかしがん細胞での非相互転座の存在などの状況証拠から、BIRが起こっていることが推定されていた。こうした中で、Halazonetisグループは2,014年にサイエンス誌に出た論文で、BIRが実際にヒト細胞で起こっているとする証拠を提出した。

これを簡単に紹介すると、彼らはsiRNAのスクリーニングにより、U2OS細胞でDNA複製ストレスに際してDNAの複製が起こるのに必要な遺伝子を同定した。その中で、POLD3とに着目した。これらはDNAポリメラーゼδ複合体の構成メンバーだ。DNAポリメラーゼは通常はDNA複製におけるラギング鎖の複製に関与している。酵母のBIRではPOL32遺伝子(POLD3に相当)が必須であることが知られている。

U2OS細胞(ALT細胞)に二本鎖断裂が生じた際にBIRが起こったことを検出できるようなプラスミドを組み込んで、候補遺伝子のsiRNAによってBIRの頻度低下がおこるかどうかを検討した。組み換えられた配列から起こった出来事を読み取るのである。その結果、POLD3がBIRに必要であることがわかった。

このプラスミドは染色体上の(テロメア以外の)普通の場所のどこかに組み込まれていると思われるので、テロメア外のどこかで起こるBIR一般についてはPOLD3が必要であると結論された。

以上から、酵母に加えて哺乳動物(ヒト)細胞でもBIRが起こっていることが判明した。テロメアではどうか?

(なかなか進まないが、次回に続く)

 

(注1)最近では"nomology-directed DNA repir(HDR)という呼び方も定着してきている。

(注2)D−loopの由来はその形がアルファベットの”D”に似ているから(図中D、Gにある構造)。