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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

ヒト胚エディティングへの”黄信号”

米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)と米国医学研究所(National Academy of Medicine)は、後の世代に伝わるようなゲノムエディティングについて、将来的には認めるという結論を出した。2,015年の暮れに召集された2,015ワシントンサミットの討論を受けて、アカデミーが作った21名からなる委員会が議論を続けてきた。これは研究者、生命倫理専門家、法律家、患者団体、バイオテク起業家などで構成されている。報告書は計261ページに上る。

NPRの報道では、"Scientific panel says editing heritable human genes could be OK in the future"とやや楽観的な見出しが、しかし一方サイエンス誌の記事では"A yellow light for embryo editing"とかなりネガティブな見出しがついている。

要約すると、生殖細胞系列(germ-line)でのエディティングは他に代替治療がない場合に限り、重篤な疾患または障害が予想される場合に限って許容される。但し、実施される前にさらに有効性と安全性を確認するための数多くの基礎研究が必要であるとする。さらに厳格な事前審査をパスする必要がある。

これを”できる”と解釈するか”できない”と解釈するかは人によって感じ方が異なるであろう。

ともあれいわゆるデザイナーベビーのような機能を”増強する”方向でのエディティングを禁ずるということで、研究サークルは概ねこれを歓迎する論調である。一方”治療”と”増強”の境界が曖昧なケースも想定される考える研究者もいる。例として筋ジストロフィーを挙げている。

今回委員会が列挙したエディティングの実施のための条件は以下の通り。

⒈ 重篤な疾患または障害で、代替治療のないこと。

⒉ 当該遺伝子(の変異)が疾患の原因であることへの十分な証拠があること。

⒊ エディティングによる配列変更が機能回復のみを企図していること。

⒋ エディティングのリスクと有益性が十分に研究されていること。

⒌ 実施対象者の健康状態と安全性に関する継続的かつ厳格な審査が行われること、および長期的、複数世代に亘る追跡調査に関する包括的プランが存在すること。

⒍ 患者のプライバシーを保ちつつ最大限の情報透明性が保たれること、および継続的な健康状態、社会的利益とリスクの評価が行われること。

⒎ 操作が病気治療以外の目的以外への拡大を防ぐための審査メカニズムが存在すること。

 

なお現時点ではFDAがヒト胚の遺伝的改変が意図的に行われるような研究計画を審査することは禁止されている。また同様な研究への連邦政府機関からの研究資金の交付も禁止されている。

以上から、現時点ではヒトのgerm-lineを対象としたエディティングそのものは実質的にはできない。その前提としての効率や安全性を得るためのデータを蓄積することが要求されている。一方で、規制当局と各医療、研究機関での法的、制度的整備とガイドラインの策定が急がれる。