メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

グリズリーはなぜ列車にはねられるのか?

NBAメンフィス・グリズリーズMemphis Grizzlies)はなぜグリズリーズなのか? テネシー州西部は平原でグリズリーはいない。答えは簡単で、元のバンクーバー・グリズリーズが移転してきたからだ。今のグリズリーズはそこそこ強いチームだが、カナダ時代の成績はひどいもので、計6シーズンで年間最高勝率は.280!!(だから移転したのだが。)

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グリズリー(grizzly bear、和名はハイイログマ)は北米ロッキー山脈に広く生息する大型動物で、ヒグマの亜種。グリズリーは米国、カナダ両国で保護されているが、カナダでは国立公園内の鉄道線路に出没し、ここ20年間で列車にはねられて死亡する個体が増加していることが問題となっていた。

サイエンス最新号の記事"Why are grizzlies dying on Canada's railway tracks?"はこの原因を追求した話である(注1)。それによると、バンフ国立公園(注2)では2,000年以降17頭のグリズリーが列車にはねられて死んだ。この地域のグリズリーの総数は約60頭なので、この数は無視できない。アルバータ大学の研究者がこの急激な列車事故の増加の理由を追求した。このための費用として鉄道会社が約100万カナダドル(約8,700万円)を負担して、調査は2,012年から2,017年にかけて実施された。

具体的には、線路のカーブや地形のグリズリーの危険認知への影響、さらには各個体の行動をGPSによって追跡することなどが行われた。その結果、わずか6頭が恒常的に線路内に出没していることが判明した。どうやら線路はこの6頭のテリトリーになっているようである。さらに重要なことは、多くの事故がひとつのS字カーブの西側出口で起こっていることがわかった。

さらにトランスカナダハイウエイを跨ぐ野生動物用の陸橋(woldlife overpass)の整備によって、グリズリーが鉄道線路まで行動範囲を拡大したことなども要因として考えられた。カナダの国立公園では高速道路の両側は柵で仕切られていて、野生動物は侵入できない。しかしそれを跨ぐ、あるいは潜るようにして野生動物用の通路が設けられている。下の写真は私が2,013年にバンフ国立公園に行ったときに撮影したものだ。

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(高速沿いに柵が延々と続く。遠景が雄大だ。)

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(数キロおきに橋がかかっている。この上を野生動物が通る。だから高速道路の方が囲われている。)

 

さて研究者らは、グリズリーを線路に誘い出す真犯人を”貨物列車から漏れ落ちる小麦”であると考えている。彼らはこの国立公園内で年間110トンもの穀物が列車から撒かれ、これは50頭もの成グリズリーを養うに十分な量であると見積もる。

これらすべての状況から、研究者らは線路の改善、グリズリーへの警告装置の設置、穀物の脱落の防止、線路を柵で囲うこと、などの改善策を提言している。

 

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(バンフのホテルの土産物売り場。グリズリーが一番人気。)

 

(注1)論文はAnimal Conservationに掲載されているというが、今のところ該当する論文は見当たらない。

(注2)バンフ国立公園はカナダで最初の国立公園。新婚旅行のメッカとして日本では有名だが、最寄り空港はカルガリー国際空港。