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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

感染症が遺伝子頻度の変化(=進化?)を起こす

近年の種絶滅の原因として感染症が重要であることを何度か書いてきた。隔離された集団に初めてある病原体が流行すると免疫がないために簡単に個体数が激減する。これはヒト集団でも同様で、その例として北米原住民が欧州の病原体と接触した際の人口の激減についてもふれた。同様に麻疹ウイルスと初めて遭遇したカナダ太平洋岸のツィムシアン(Tsimshian)族のHLA型に関する記載がNature Communicationsに出ている。

この部族は1,700年代の初めに欧州人と接触した。この接触の前後のツィムシアン族の遺伝子組成を比較するため、500~6,000年前に生きていた25体からのDNA、および現代ツィムシアン族の人々から得たDNAをエクソーム解析で比較した。

その結果、顕著に見られた違いはHLA-DQ1保有率が100%から36%への低下していることであった。HLA-DQ1は既に感染したことのある病原体に対する抵抗性を与えるが、初めて接触する病原体に対しては無力である。この研究を行ったグループは約175年前にこの遺伝的シフトが起こったと推定している。この時天然痘により全人口の約70%が失われたという。このことと一致するように、現代のツィムシアン族では遺伝的多様性が低下していることもわかった(注1)。

このような特定の遺伝子の頻度が集団中で大きく変化することを”進化”と呼ぶならば、感染症は進化の大きな原動力ということになる。ところがYuvari Harariはその著書"Sapiens: A Bief History of Humankind"の中で、そもそも伝染病の流行自体が約一万二千年前に起こった人類の”農業革命”以前にはそれほど深刻な問題ではなかったと述べている。確かにヒト集団がある程度以上の密度で存在しなければ、感染環の連鎖はおこらない。そう考えると、農業革命以前には伝染病がヒトの進化に大きく寄与することはなかったのかもしれない。

 

(注1)疾患の流行が特定の遺伝子を選択することは、タスマニアン・デヴィルの項で述べた。この場合は伝染性腫瘍に対する抵抗性を賦与するような遺伝子が選択されるようだ。(実際に頻度上が明らかになった遺伝子の機能が未だ特定されていないので、断定できないが。)

 

追記 2/23/17

ネイチャー2月23日号に関連する研究が紹介されている。そこでは16世紀にメキシコ原住民(アステカ人)が欧州から持ち込まれたサルモネラSalmonella enterica、パラチフスC菌)に感染し、人口が激減したことが推定されている。これは例によってサルモネラの配列が、その時期に葬られた遺体の腸管内容物のDNAから検出されたことによる。メタゲノム的手法である。