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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

新大統領のもとでの科学政策は?

ドナルド・トランプの当選により彼が時期大統領になることが決まった。大統領選の勝敗は敗者の”敗北宣言(concession speech)”によって決定されることになっているので、これは最終的な結果である。これで多くの分野の政策が変更されるであろう。科学政策もその一つだが、既に各方面から不安の声が上がっている。トランプ自身の科学(および技術)への認識で明らかにされているのは以下の諸点。これらは選挙の翌日(11/9)のNatureオンラインでまとめられている。

⒈ 二酸化炭素濃度の増加と地球温暖化との関係を認めていない。

⒉ NASAにおける宇宙開発を低高度軌道の商業宇宙飛行のための組織に矮小化しようとしている。

⒊ 移民に対する非妥協的姿勢が外国人研究者、学生の滞在を阻む可能性がある。

⒋ 空席となっているNASAやNAOAA(アメリカ海洋大気庁)のトップの任命権を持っている。これらの機関は上記1、2と関係する。

⒌ やはり空席になっている最高裁判事(複数)の任命権をもつ。最高裁の判決が地球温暖化に対する政策に大きく影響する可能性がある。

最初にあげた温暖化についてはトランプ本人はパリ協定からの離脱を考えている。しかしこの離脱は手続上4年の任期中には不可能であるらしい。いずれにしても地球温暖化対策で米国のプレゼンスは後退し、主導権が中国に握られる可能性がある。(いうまでもなく日本は既に出遅れている。)

医学生物学研究の話をすると、オバマ政権の最後の予算年度(7月→6月)である2,016年度には16%程度のNIH予算の増額があった。これにより当然研究者たちはNIHグラント増額の恩恵に与っている。この増額傾向が新政権でも続くかどうかは重要だが実際には不明である。過去の政権の科学政策を振り返ると、一般的に共和党政権下では科学研究予算は潤沢ではなかった。だから筆者は悲観的に見ている(注)。

以上の諸点を眺めると、一言で言うとトランプ氏の科学全般への理解の乏しさが窺える。これは別に驚くことではなく、見かけどうりだと言えるだろう。米国での医学生物学研究ではいろんな意味で(特に倫理的な)制約が小さい。これが米国での生命科学研究のスピードを許してきたのだ。例外的だがGWブッシュ政権はヒト幹細胞研究を凍結した。これはブッシュ本人の信仰に根拠があった。このような特定の研究領域への制限が新政権でも課される可能性は皆無ではない。その場合は(日本を含めた)米国以外の国々にその分野でのアドヴァンテージが移ることになる。

 

(注)基本的に研究費の多寡が研究の量と質を決定すると考えられる。しかし特に医学生物学分野においては米国の研究スタイルは(私見では)資金が潤沢にあることを前提としている。この点については英国型の研究スタイルを導入することが必要になるかもしれない。(これには午前・午後のお茶の時間の考慮とかも含まれる。)米国型の欠点の一例はグラントに研究者の雇用が相当程度に依存していることである。