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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

G7保健相会合と中国の耐性菌対策

これを書いていた9月11日は米同時多発テロの15周年だった。TVでは記念(祈念?)式典が続いていた。15年前のこの日のことはいまだによく覚えていて私も考えるところはあるが、守備範囲を超えているのでここで話題にすることは避ける。

日本発のニュースではG7神戸保健大臣会合(9/11-12)が開催されたことが報じられている。主要議題の中に”薬剤耐性への対応強化と研究開発の推進”が入っていた。既に本ブログでも言及しているが、少なくとも米国ではFDAが動物用抗菌薬の無制限な使用に関する規制策を1年以上前に公表している。これはいわゆる肥育目的の低容量抗菌薬の飼料への添加を禁止すること、それに動物への抗菌物質投与はすべて獣医師の処方箋が必要となるというのが主眼だ。さらに大統領府(ホワイトハウス)はこれに呼応して政府機関の食堂等で使用される食材については、抗菌物質なしで飼育された家畜・家禽を用いるようにすることを発表した。全国レベルでのこうした対策は耐性菌の出現頻度を効果的に低下させると期待されている。

しかし薬剤耐性菌は世界のどこででも生じて旅客機で飛んで来る。さらに菌種を飛び越えて伝達するものもあるので、米国が一人で頑張っても仕方がない。中国では既に最後の砦とされるコリスチンに対する耐性大腸菌が出現する事態となっている。そもそもこのコリスチンという抗生物質は全く優れた薬剤ではない。他に使えるものがなくなっているのだから仕方がない。ということはいよいよ抗生物質が何も効かない時代に突入しつつあるわけだ。さらに悪いことにこの耐性が伝達性であることもわかっている。

今月21には国連総会の高レベル会合で世界の人々がいかにして必要な時に抗菌剤投与を受けられ、かつ薬剤耐性を抑えるかという現代の難問について話し合いが持たれる。G7会合ではこうした難題に対する有効な方策と、先進国間での協調のありかたが討議されたのだろうと私は予想している。既に閉幕したG20会議でもこの問題は議題になっていたらしい。(今のところその内容をトレースできないのでここでは記載できないが。)

世界の抗生物質使用のほぼ半分が中国で使用されている。上に述べたような家畜・家禽や養殖魚への使用は莫大な量に上る。さらにまずいことに、中国では人への抗生物質の使用には医師の処方箋が不要なのだ。こうしたすべての状況は中国が薬剤耐性菌発生の温床にることを許してきた。

G7会合やG20会議、さらに国連の会議に連動していると思うが、中国政府は薬剤耐性菌対策に本腰を入れることを8月26日に公表した。

その内容を大雑把に述べると、14の中央省庁と機関を動員して (1) 新規抗菌剤の開発と、(2) 処方箋のなしでの抗菌剤の販売の禁止、(3) ヒトや動物への抗菌剤の使用状況の把握のためのサーベイランス、(4) 抗菌剤の適切な使用法の医師、患者の教育。これらを2,020年迄に実施するという内容だ。

新規抗菌剤の開発については、中国政府がどのような財政的サポートを実施するかについては全く不明である。”抗菌物質の真空状態”の原因は、自然界での新規抗生物質の枯渇、薬価的なデメリット、それに耐性菌の蔓延、これらの理由により大手製薬会社がもう手を出そうとしないことだ。そのため抗菌物質の開発にはこうした内在的な問題をいかにして乗り越えるかについてのアイデアが必要だ。しかし中国政府はこの点に関しては今のところ具体策は公表していない。

ともあれこうした中国の動きは、責任ある大国として国際的貢献への態度を演じようとしているように見える。見守って行きたい。We'll see.

 

(追記 9/21/16)

本日、上に書いた国連総会でのハイレベル会合が行われた。これに参加したのは各国政府代表をはじめ、国際機関、非政府系団体、市民団体、学者など広範な領域の代表だ。ラジオ(NPR)のニュースではWHO事務局長のMargret Chanの演説が流されていたが、盛んに”歴史的”ということを強調していたのが印象的であった。ニュースでは、二つの柱、これは上の中国の方針のうちの (1) と (2) と同じ内容を推進してゆくことを述べていた。(1) の新規抗菌物質の開発については、具体的な戦略が不明確な点で中国政府の発表と変わらない。最大の問題は組織と資金であるが、これまでの開発はもっぱら営利企業によって行われていたわけだ(注1)。これが今後どのような枠組みで行われるのか道筋は全く見えない。しかしG7、G20国連総会のすべてが一致して方針を確認したことは、確かに歴史的な出来事である。

(注1)日本の微生物化学研究所のような例外はある。

(さらに追記 9/29/16)

今日のラジオ(NPR)のニュースで、アフリカの象の密猟を抑えるために中国が象牙売買の規制に動くことが報じられていた。しかしこの件においても実際の行動予定は明らかにされていない。”普通の”地球市民として振舞うことは結構だが、要は実行力だ。このままのペースでアフリカ象が減少すると現在の世代の内に絶滅すると予想されている。

 (さらにさらに追記 3/6/17)

中国政府は大気汚染を改善し、食品と医薬品の安全性を向上させ、さらに科学研究を促進することが李克強によって全人代2,017で発表された。詳細なプランは例によって不明である。