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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

スリランカのマラリア根絶から(少し)考える

9月5日、WHOはスリランカにおけるマラリアの根絶を宣言した。これは現地でのマラリアの感染が3年間記録されなければ宣言が出される。(患者が移入されただけのケースは除外される。)

スリランカマラリアが根絶されたというグッドニュースが出た。

WHOWSJ、Science)

上記のいくつかの記事から簡単な年表を下に掲げる。

1,934−35年  患者数550万人、死亡8万人

1,960年代初頭 患者数20人/年

1,969年    患者数50万人/年

1,970−80年代 患者数増加

1,990年代半ば 現在に続くマラリア対策の開始

2,009年    中断していたマラリア対策を再開

2,012年9月  患者数0人

 

もともとスリランカマラリアは大部分の三日熱マラリアと一部熱帯熱マラリアであった。特に記載はないが1,960年頃には患者数が少なかったのでこれ以前にも何らかの方策が取られていたと考えられる。1,990年代に開始されたマラリア対策とは原虫と蚊の両方を標的とするやり方だ。これは移動診療所を駆使した方法で、感染密度の高い地域での殺虫剤処理した蚊帳の配布、サーベイランス、および患者の治療をピンポイントで行うやり方だ。1,998年頃に25万人以上だった患者数が、2,004年頃から安定的に少ない状態に保たれていることがUCSFのサイトのグラフでよくわかる。こうした感染事例の周辺に標的を絞った方策は、2,014−16年の西アフリカのエボラ出血熱の流行末期のワクチン接種(実際は接種試験)、さらには遡って天然痘の患者と接触する可能性のある人々に限った種痘など、過去に成功例がいくつかある。しかしこれらはともに基本的にはヒト->ヒト感染で流行が起こる病気であって、マラリアのような昆虫を介した感染症では例がない。今回のunorthodoxな対策の成果についてWHOは高く評価している。

東南−南アジア地域ではこのマラリアの根絶はモルディブに次いで2番目だ。防疫分野では島嶼国家には利点がある。日本も例外ではない。但し旅行者によるマラリアの持ち込みは常に存在するので再び流行が再燃する可能性はある。しかし現在の防疫体制が機能するかぎり、実質的には0患者を維持できるはずである。

表中2,009年にマラリア対策の再開とあるが、これは1,983年から2,009年にかけてのスリランカ内戦によるマラリア対策の中断による。内戦や国家間の戦争が公衆衛生の最大の敵である。そのことは現在の中央アフリカ諸国の状況をみれば理解できる。 シリアについても同様に悲惨な状況にあると思われる。