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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

ブラジルのジカウイルスの起源

ジカウイルスに起因すると見られる小頭症だが、その最大の謎は“ジカウイルス自体はかなり以前から知られていたにも関わらず、近年のブラジルでの流行で初めて小頭症との関連が現れたのはなぜか?”ということだったと思う。この疑問に答えるための有力な情報はブラジルのウイルスの起源を探ることで得られる。サイエンス最新号 にこれに関する簡潔な記事が掲載されている。以下にそれを要約して紹介する。

ブラジルで分離されたウイルス株のゲノム配列を決定したところ、新生児小頭症や大人の神経症状を起こすのに必要と思われるような変異をとりあえず見出すことはできなかった。こうした場合は土俵を大きく取るのが得策である。そこで 9ヵ国(米州 (6)、仏領ポリネシア (1)、クック諸島 (1)、タイ(1))で得られたウイルス株の配列を決定した。最も近かったのは米州で得られた株どうし、最も遠かったのは2,013年のタイの株であった。この結果はこれまで言われてきた“ブラジルのウイルスは仏領ポリネシアからたった一度だけもたらされたとする”説と矛盾しない。さらにこの一回のイベントとは2,013年にブラジルで開催されたサッカーのコンフェデレーションズ・カップである可能性を挙げていた。ちなみにこのときにオセアニア代表として出場したタヒチ(仏領ポリネシア)は南米の強豪ウルグアイに8対0で敗れている。しかしこれはタヒチでジカの感染が記録される2ヶ月も前のことであったという。で、この可能性は除外された。

人々の大規模な移動を促すイベントとしてこうした国際的なスポーツ大会が注目される。しかしそれ以外でも人の移動はすでに十分にある。例えば、2,013年にはフィリピンからブラジルに到着する航空機は月間1,000便を越えている。インドネシアやタイからも同様である。こうしたことから、ウイルス学者は現在フィリピンで得られたウイルス株の解析を行っている。

この記事はそれなりに興味深い内容を含んでいる。その一つは、熱帯地域から熱帯地域への人の移動である。このような移動は感染症の伝播をより効率良く引き起こすのだろうか? 20世紀には航空機は主に途上国(南)→先進国(北)→途上国(南)のルートを取っていたが、現在では途上国(南)→途上国(南)と直接飛ぶのが増えているようだ。人々の移民のパターンを見ると、南の熱い国の人々はやはり南の国を移民先として選ぶ傾向がある。例えば、インド出身の人々は赤道をぐるりと回るようにしてどこにでもいる。それはシンガポール、フィジー、中米、アフリカ中央部、ペルシア湾岸諸国などだ。南から南への感染者の移動は、移動先で現地の媒介昆虫(蚊)に刺されることでより簡単に病原体の拡散が引き起こす可能性が考えられる。もし本当にこうしたことが起こるのであれば、世界的な防疫体制の見直しが必要であろう。

もう一つ。ゲノム塩基配列はウイルスの病原因子を特定するのに最も重要な情報である。しかし、今回の記事では得られた配列情報からの新たな病原性(神経向性)を獲得するに必要な変異に関する記述が全くなく、やや不十分な印象を受けた。このためにはさらに多数のウイルス株の配列決定が必要であることは理解できるのだが。