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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

効力の低いデング熱ワクチンが有望視されている

最近効果の低いワクチンが有望視されている。そのひとつはデング熱ウイルスに対する組み換え方弱毒生ワクチンである。

 

私の同僚が親族の結婚式のためインドに一時帰国するという。米国−インドの往復は米国−東アジアよりもさらに長時間の旅であり、本人はそれが憂鬱であるとう。メンフィスー>ダラスー>ドバイー>バンガロールの経路らしい。このうち一番長いダラスードバイは14時間かかる。

さらに彼の3歳になる息子がインドで病気に罹るかもしれないことが、より大きな心配事だという。この“病気”の中でこの同僚が最も危惧しているのがデング熱だった。

 

デング熱への対策については以前触れた。

ウイルスには4種類の血清型がある。この疾患のやっかいなところは一度ひとつの型のウイルスに感染すると、次に別の型のウイルスに感染した際にきわめて重篤な症状を示し(デング出血熱)、この場合の致死率がかなり高いことである。そのためデング熱のワクチン開発においては単価ワクチンはむしろ危険であり、4つの血清型全てに対する多価ワクチンの開発が望ましいと考えられてきた。一回の接種で全て血清型に対する十分な抗体価を得て、以後どの血清型のウイルスに対しても感染防御を成立させようとするのだ。

この考えのもとに最初に臨床試験に到達したのはSanofi-Pasteurの開発した、組み換え型弱毒生ワクチン(CYD−TDV)である。これは弱毒黄熱生ワクチンの骨格に4つの血清型のデングウイルスの感染防御抗原遺伝子を組み込んだものだ。2回の第3相試験がアジア、ラテンアメリカ計10ヶ国で既に終了している。その結果、このワクチンは9歳以上の子供に対しては高い感染防御効果を示したが、それ以下の年齢の子供にはあまり効果がなかった。しかしこのそれほど効力のないワクチンの認可が望まれている。この状況は効果の高いワクチンのみが承認されていたこれまでの状況と大いに異なる。

何故か?

デング熱は主に熱帯地域にある100以上の国の計約3億9千万人に毎年感染を引き起こしている。最低の月平均気温が摂氏10°C以上の地域では媒介昆虫であるAedes族の蚊がウイルスとともに越冬できるのでワクチン接種が必要となるのである。デング熱患者は多くの場合入院治療を必要とするので、その流行は感染そのものによる人的被害のみならず、入院患者の急増による地域医療の圧迫をもたらす。したがって、ワクチン接種は感染による人的被害とともに医療施設に対する負荷を低下させる効果を持つ。このように考えるとワクチンの効果は必ずしも100%を達成しなくても、医療機関の負荷が減じるので、公衆衛生上の効果はもたらされるというわけだ。

こうした考えのもとにSanofi-Pasteurのワクチンの効果を評価すると、16歳以上で比較的高い効果があり、かつ安全である。さらに入院したケースも顕著に減少したので、地域医療に対する負荷を軽減する効果があったと判断されたのだ。

CYD−TDVに続いて様々なタイプのワクチンが臨床試験には入っている。この中には不活化、弱毒生、組み換えキメラ、サブユニット、およびDNAワクチンが含まれている。今後いずれかのワクチンがCYD−TDVより高い効力を示す可能性はあるが、現時点ではCYD−TDVが唯一の使えそうなワクチンである。

 

さて先に述べたように、ワクチン接種後に新たな感染によって引き起こされる重篤症状(デング出血熱)の発生の問題はどうなったんだろうか? この点についての言及はないので大きな問題は生じなかったものと推測される。