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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

小型条虫の細胞がヒト体内で“がん”を作る!

何とも不可思議なタイトルであるが今週号のNew England Journal of Medicineに発表された論文である(Malignant Transformation of Hymenolepis nana in a Human Host)。

HIV感染のあるコロンビア人男性の肺その他の臓器に腫瘍状の塊があるのが見つかり、バイオプシー検体に実際に細胞塊があることが病理検査で確認された。しかしこの塊を構成する細胞はサイズが著しく小さく、さらにヒト細胞骨格に対する抗体で染色されなかった。このことから著者らはこれの細胞が単細胞の異種細胞の感染によるものであろうと考えた。しかし実際には候補として考えられたいずれかの真菌などの抗体には反応しなかった。結局ゲノムシークエンシングの結果、小型条虫Hymenolepsis nanaの配列が見出された。興味深いことに、この条虫のゲノムDNAには多数の変異が入っていた。

この患者は死亡することになるが、本人の希望により剖検は行われなかったという。興味深いのはこの腫瘍的細胞の性質であるが、細胞培養の試みは成功しなかったので細胞生物学的解析はなされていない。

 

この極めてまれな疾患は、細胞の増殖、その無形態、さらにゲノム変異を多数持っていること等、明らかに腫瘍の定義に合致している。

 同種間での腫瘍細胞の伝達については、イヌの可移植性器肉腫などが知られている。しかし異種細胞、あるいは寄生生物の細胞の腫瘍増殖については全く知られていない。

 

本症例の患者はHIV陽性で、HIVの治療を受けていなかったことから、この患者の免疫能は既に低下していたと思われる。HIV感染の他にも臓器移植を受けた患者は免疫抑制を受けているので、こうした寄生体由来細胞による腫瘍に罹患する可能性が高いものと危惧されている。