メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

狂気の遺伝子

 以前数回にわたってSvante Pääboの自伝”Neanderthal Man”について思うところを記した。

  

PääboはElizabeth Kolbertのインタビューに応じて、“ヒトと他の類人猿との違いは狂気の存在である”という。

 

ネアンデルタール人は氷河期のユーラシア大陸に拡がった。しかし大洋を渡って離島に住みついたわけではない。ネアンデルタールマダガスカルにもオーストラリアにも住んでいなかったのだ。一方現生人類はこの二つの陸地はもとより、さらに太平洋全域の島々にたどり着き、南極大陸を除く、ほぼ全ての陸地に辿りついた。

 

それを可能にした航海では人々は陸地の見えない大海原に漕ぎ出したのだ。こうした冒険を可能にしたのは人類のもつ“狂気madness”であるとPääboはいう。こうした狂気はネアンデルタールにはなかったという。

 

しかしネアンデルタールは既に道具を使い、死者を埋葬し、さらには遺体に花をそえて葬るといった人類の持っている“文化”のようなものを既に持っていた。ただしネアンデルタールの道具は何万年も変化することがなかった。現生人類は明らかに未知のもの、未知の場所に対して希求する精神的態度を獲得していたのだ。

 

Pääboはこのような人類の狂気を支配している遺伝子(または遺伝子の変異)を見つけたいという。おそらくその遺伝子は一つではなかろうが。ただし“狂気”とはPääbo自身の研究者としての精神的態度そのものであるが。

 

この部分はElizabeth Kolbert著”The Sixth Extinction (2,014)”の中の一章になっている。