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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

鳥類ゲノムプロジェクト

Avian Phylogenomics Consortiumという組織が向こう5年以内に10,500種の鳥類についてゲノム配列を決定するというプラン(B10K) を発表した。

 

この一大プロジェクトで得られる情報から、過去数十億年に亘る鳥類の進化の様子が明らかにされることが期待される。コンソーシアムは三人のリーダーによって率いられ、そのうちの一人Guojie Zhang(Beijing Genomics Institute)は自らこのコンソーシアムを紹介する記事をNatureに書いている。それによるとすでにプロジェクトは進行中で、複数の論文がすでに公表されている。

 

期待される成果としては、当然鳥類の成立、進化に関する知見を得るということだ。加えてインフルエンザウイルスに代表される、ヒトの病原微生物の鳥類での動態が把握できる可能性も挙げている。原理上インフルエンザウイルスのゲノムは鳥類のゲノム上に取り込まれることはないので、このようなRNAウイルスのゲノムの動態をどのようにして把握するかはこの紹介記事を読んだだけでは不明である。

 

 

このようなゲノム解読偏重の風潮に対する批判が同じ中国の研究者(Xin Lu, Wuhan University)からなされている。この記事の中で、Luは鳥類のゲノム情報を解釈する上で不可欠の博物学的情報(natural history information)が極めて乏しく、情報量の乖離がますます進行するであろうと予想する。実際交配による遺伝的解析が行われている種は270種以下、さらに野生環境にける代謝の状況が調べられているのは80種以下であると述べている。(この件については以前ブログの記事でふれた。)

 

今日こうした博物学的情報を得るための研究が先細りになりつつあることも指摘している。Luはその理由を二つ挙げている。一つは現在の研究評価がゲノム情報偏重であること。もう一つは若い研究者がこうした地道なフィールドワークから離れつつあることである。

 

 

ゲノム情報とそれ以外の情報との間でデータの蓄積に乖離が生じている問題につては以前“コーヒーゲノム”の項でふれた。確かにこれは研究現場における深刻な問題を起こしつつある。その一つは生物学の基本的かつ重要な情報である生物現象(表現型)の取得法を知らない研究者がどんどん増えていることである。こうした状況をどのようにして克服するかは研究者社会で議論されるべきである。

 

さて今回紹介したコンソーシアムの代表者の一人は中国人である。ゲノム研究における中国のプレゼンス既に世界的に確立されたといってよい。米、英と並ぶ存在である。今回のコンソーシアムには日本からも5つの研究機関(東大、明大、北大、理研沖縄科学技術大学院大学)が参加しているが、代表者グループにくい込んでいるわけではない。

 

他の分野はよくわからないが、医学生物学分野ではこの5年間で日中の位置は、質的量的に既に逆転したものと思われる。