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メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

モンサント襲撃

サイエンス誌のニュース記事によると、先週初めイースターの夜(16日)にイタリア(Olmeneta, Italy)にあるモンサントの研究施設が襲撃された。この場所は北イタリアのクレモナの近く。 襲撃は火炎瓶によるもので、試験用の種子が貯蔵されている低温施設が…

”画期的な”研究費配分新方式?

米国と欧州の二人の研究者が研究費配分の新方式を提唱している。 今や欧州でも米国でも、研究者にとって研究費獲得はたいへんな重荷だ。米NIHグラントの採択率は、2,003年の30%から2,016年の19.1%にまで低下している。欧州でも若手研究者の研究開始のため…

NIH予算は予期しない経済効果をもたらす?

しばらく前に2,018年度のトランプ科学予算について書いた。その際NIHグラントが経済に及ぼす”多少の”寄与について私見を述べた。基礎研究に対する公的資金の投入はどの程度の経済効果をもたらすのだろうか? 昨年ノーベル医学生理学賞を受けた大隅良典のオー…

免疫チェックポイント療法ががんを増悪させるケース

最新号ネイチャーに抗PD−1療法ががんの進行を速めるケースのあることが紹介されている。これでは最近Clinical Caner Researchに発表された二つの論文の内容が述べられる[1, 2]。 免疫チェックポイント療法は全体の20%程の患者に対して著効を示し、がんを"治…

ジカとデング、交叉免疫

フラビウイルス属ウイルスによる感染症は潜行と浮上を繰り返してきた。ごく最近の大きな問題はジカ熱だ。さらに少し前に日本で問題となったのはデング熱だ。 このウイルス群の研究は黄熱以来の長い歴史があって、感染様式、病理発生、免疫・感染防御など、重…

NIH予算の削減

トランプが科学予算の原案を出してきたが、今のところは大統領が勝手に提案しているところで、これからの議会とのやり取りの後に最終的な形をとることになる。 NIH予算について3月29日に、議会公聴会でトム・プライス(Tom Price)保健福祉長官が議員らの質…

テロメア維持の機構(7):ALT細胞のテロメアではBIRが起こっている

(前回から続く) 前回はヒト細胞でBIR(break-induced replication)と呼ばれるHRの一形態が実際に働いていることを述べた。そこでBIRの様子を図示したので再び参照されたい。 超絶FISHによるBIRの検出 このBIRがテロメラーゼ非依存性テロメア維持(ALT)で…

トランプ科学予算の概要

トランプ大統領の予算案の概要が明らかとなった。この2,018年度予算は来年の10月から開始されるもので、議会は今年末までこの予算案の可決はしない方針というが、とりあえずそこでの科学関連予算についてまとめておく。 一つ大きな原則があるが、それは地球…

テロメア維持の機構:(6)ALT細胞のテロメアの組み換えメカニズム、BIR?

(だいぶ間が開いたが前回より続く) テロメアの話を進める。このシリーズの最初に述べたことを思い出したい。 ”がんで認められるテロメア維持の機構(telomere maintenance mechanisms, TMM)が確定したようなのでまとめたい。”と私は書いている。これは昨…

21世紀の麻疹

先週ジョンズ・ホプキンス大学のDiane Griffinの講演があった。タイトルは”Understanding Measles in the 21th Century”だ。 話は1,846年のフェロー諸島での観察記録から始まった。Peter Panumという医師がこの諸島での麻疹(measles)の発生を注意深く観察…

言語と生物種

先週ケニヤ人が加わった。これで研究部の中にスワヒリ語話者が3人になった。国名でいうとケニヤとルワンダだ。この人たちは皆自分のことをスワヒリ語を話すというが、お互いのスワヒリ語は相当違うという。 同じ階にはたくさんのインド人も働いている。しか…

まずは一安心か?:H7N9トリインフルエンザ

前日のトリインフルエンザの続報がUSDA APHISサイトに出た。 全ゲノム配列を決定した結果、このウイルスはH7N9と同定された。しかし中国でヒトへの感染を起こしている系統とは異なり、北米の野鳥に生息している系統であることがわかった。中国から北極経由…

米国での新型トリインフルエンザ(H7N?)の発生

本日、テネシー州の養鶏場でトリインフルエンザが発生し、約7万4千羽が処分されたというニュースが流された。APHIS(農務省の動植物防疫部門)のページに過不足ない記事が出ている。 この養鶏場はテネシー州南部リンカン郡に所在し、大手食肉流通のタイソン…

ZIKAウイルスのmRNAワクチン:小頭症が防げるか?

予想した通り、ZIKAウイルス(ZIKV)に対するmRNAワクチンの論文がCell最新号に上がってきた。 核酸ワクチンの利点については既に広く認識されている。Cell最新号にZIKVの感染防御抗原をコードする遺伝子をmRNAしたワクチンが、ワシントン大学(Washington U…

ヒト胚エディティングへの”黄信号”

米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)と米国医学研究所(National Academy of Medicine)は、後の世代に伝わるようなゲノムエディティングについて、将来的には認めるという結論を出した。2,015年の暮れに召集された2,015ワシントンサミット…

Gene driveの無力化

Gene driveはエディティングから派生した技術で、その遺伝子を持った個体から生まれた仔の全て(100%)が導入された遺伝子を持つようにデザインされた方法だ。その概略は以前本ブログで模式図とともに概説した。これはわずか一年ちょっと前のことだ。 私は…

ヒト-有蹄類キメラの作出:最初の試みの中身と背景

昨年移植用臓器のソースとしてヒト-有蹄類のキメラの可能性を探るような研究が計画されていることを書いた。昨年夏こうした研究に対する米連邦政府機関からの研究補助金の交付にゴーサインが出た。 先月のセルにこの流れの仕事では初めての論文が出た。タイ…

H7N9、スペイン風邪(1,918年)以来の脅威? 

タイトルがやや刺激的だが、もう一つの新型トリインフルエンザのことだ。 野鳥の渡りのためトリインフルエンザウイルスが伝搬されることを書いた。温帯地方からウイルスが北極圏に北上し、さらにそこから別の温帯地方にウイルスが南下するという形をとる。し…

各国のGM事情

GM(遺伝子組み換え)作物(動物)が安全であるためにはどこまでの証拠が必要か? "Genetic divide"という小さな囲み記事がサイエンス2月10日号に出ている。これはすごく大雑把だがGMOに対する各国の考え方がまとめられていてとても良い。 最初に冒頭の問い…

グリズリーはなぜ列車にはねられるのか?

NBAメンフィス・グリズリーズ(Memphis Grizzlies)はなぜグリズリーズなのか? テネシー州西部は平原でグリズリーはいない。答えは簡単で、元のバンクーバー・グリズリーズが移転してきたからだ。今のグリズリーズはそこそこ強いチームだが、カナダ時代の成…

がん研究での再現性の大問題

先々週はトランプ氏が新大統領に就任したので一般のメディアは無論これがトップニュースだった。しかしがん研究者にとってはeLifeに出た"Reproducibility in cancer bilogy: Making sense of replications"が無視できない。 再現率は2/5 がん研究の再現性…

野球選手の時差ボケ

野球選手の時差ボケの研究がPNASに載っている。 よく知られているように、飛行機で東に移動するときと、西に移動するときとでは時差ボケの程度が違う。野球選手に与える時差ボケの影響も、西から東に移動する場合のほうが影響が大きくて、プレーのレベルが低…

寿司ネタの半分が間違った名前で出されている

これはおもしろいニュースだ。ロスアンジェルス(LA)の寿司レストランで出されている寿司のネタの名前が半分ほどが正しくなかったという話。 これはUCLAなどの研究者によって行われた研究でJournal of Conservation Biologyに発表された。代表者はPaul Barb…

象牙取引停止への中国政府の決意

中国政府は2,017年末までに国内での象牙の取引の中止を達成することを約束した。当然この決定は自然保護主義者たちに好意的に受け入れられている。年々相当な勢いでアフリカゾウが密漁されているが(年間20,000頭という)、この対策はアフリカゾウ保護におけ…

2,017年はゲノムシークエンシングが爆発する?

昨年末、サイエンス誌に昨年(2,016年)発表された最大の科学的発見が掲載された。それは”重力波の観測”だったが、別記事でそれに次ぐ9つの業績も出された。この中には京大グループによる”受精能を持ったマウス卵子のin vitroでの作成”などが含まれている。…

テロメア維持の機構:(5)テロメア姉妹染色分体交換(T-SCE)

(前回から続く) T−SCEに限らず、テロメアという特異なゲノム領域を追求する手法には研究者の知恵が込められている。テロメア姉妹染色分体交換(telomere sister-crhomatid exchange、T-SCE)について少し考察したい。 生細胞中のゲノム変異を追求する方法 …

ジフテリア治療薬の枯渇

昨日号のサイエンス誌に"Life-saving diphtheria drug is running out: Two children's deaths in Europe spur search for new sources of antitoxin"という記事が出ている。欧州でジフテリア抗毒素血清の不在によって子どもが死亡したという事例だ。 先進国…

ドランプ政権下でのFDAの行方

ネイチャー最新号(新年の最初の号)にトランプ新政権下での食品医薬品行政の変更の可能性についての記事が出ている。 食品医薬品行政で問題になるのは、例えばゲノム・エディティングによって作出された家畜の新品種の承認の可否であるとか、幹細胞技術の臨…

NBAと大学のサラリーキャップ

米国のメージャースポーツでは各リーグに所属しているチーム間の戦力均衡を図るために、所属選手の年棒総額に上限を設けていることが多い。 その典型的な例がNBA(National Basketball Association)だ。一昨年のリーグチャンピオンシップの覇者、ゴールデン…

テロメア維持の機構:(4)ATRXはテロメアDNA複製を”助ける”?

(前回からの続き) すでに繰り返し書いたようにALTの腫瘍では正常なATRXタンパクが発現していない。ALT細胞株にATRXタンパクを強制発現すると、ALTの諸性状が消失することは前回述べた。 同じような状況でのテロメア長の変化についてはRichard Gibbonsのグ…

テロメア維持の機構:(3)ATRXの働き

(前回から続く) テロメアではG4が形成される G-quadruplex(G4)というのは4個のグアニン塩基が同一平面上に配置した構造。ふつう二本鎖DNAが形成されるときに働くのはワトソン・クリック型塩基対だが、G4の場合はフーグスティーン型塩基対(Hoogsteen bas…

マイク・ホンダの引退

2,016年は各国で政治が動いた年だ。大統領選挙に加えて上下両院議員の選挙も行われた。 最近のサイエンス誌にマイク・ホンダの議会からの引退が報じられている。ホンダは日本ではいわゆる従軍慰安婦問題で日本を糾弾する急先鋒として知られているが、ここで…

テロメア維持の機構:(2)ATRXの失活がALTを引き起こす

(前回からの続き) ALT細胞はATRXまたはDAXX遺伝子の変異を持つ ALTを抑制している遺伝子は何か? この疑問に対するヒントは膵神経内分泌腫瘍(PanNET)という稀な腫瘍の解析から得られた。ジョンズ・ホプキンス大学のグループはPanNETではATRXまたはDAXXの…

テロメア維持の機構:(1)ALT

大部分のがん細胞の無限増殖能はテロメラーゼの”再”活性化による がんで認められるテロメア維持の機構(temoere maintenance mechanisms,TMM)が確定したようなのでまとめたい。 テロメア維持といっても大部分のがんではテロメラーゼ(telomearse)の”再活性…

"How to win the Nobel Prize"

Peter Doherty博士がノーベル医学生理学賞(1,996年)を受けて20周年に当たる本年、ノーベル週間に合わせてシンポジウムが昨日(12/9)開催された。 Doherty博士のノーベル賞とは、"for their discoveries concerning the specificity of the cell mediated …

感染症が遺伝子頻度の変化(=進化?)を起こす

近年の種絶滅の原因として感染症が重要であることを何度か書いてきた。隔離された集団に初めてある病原体が流行すると免疫がないために簡単に個体数が激減する。これはヒト集団でも同様で、その例として北米原住民が欧州の病原体と接触した際の人口の激減に…

D・トランプ時期大統領と文豪S・フィッツジェラルド

表題のD・トランプ時期大統領と文豪S・フィッツジェラルドとはほぼ何の関係もないことを最初にお断りしておく。 トランプの勝利を”負け犬の逆転劇”と捉える記事とするを読んで、自ら実感したことを書こうと思った。記事では米国社会の”負け犬(underdogs)”…

医学史に残るC型肝炎研究

C型肝炎の治療法の開発が進んでいる。最近のCellに、"Pioneering a Global Cure for Chronic Hepatitis C Virus Infection"と題する小文が出ている。 C型肝炎は急性肝炎(ほとんど無症状)を経て、最終的にESLD(end-stage liver disease)となる。この間の…

ミツバチのカースト制はエピジェネティックに決められる?

少し前にエピジェネティクスとは何かと書いたが、今回の話は同じゲノムDNAを持った動物個体がなぜ異なる社会的役割を果たすようになるか?ということだ。この仕事自体は4年も前に公表されたものだが、この大問題の攻略法する上での大きなステップだが、さら…

環状RNAの衝撃

もう三週間前のことになるが、Pier Paolo Pandolfi(Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Stem Cell Institute, Boston)の話を聴いた(10/28)。内容は衝撃的で、まさに未開の荒野を突き進むといった話だった。中身を一言でまとめると、”細胞内…

新大統領のもとでの科学政策は?

ドナルド・トランプの当選により彼が時期大統領になることが決まった。大統領選の勝敗は敗者の”敗北宣言(concession speech)”によって決定されることになっているので、これは最終的な結果である。これで多くの分野の政策が変更されるであろう。科学政策も…

”酵母は理想的なモデル生物”か?

大隅良典教授が安倍晋三首相と面会した際にオートファジーをデザインしたラベルのついた日本酒を贈ったことがニュースとなっている。このデザインはとてもセンスが良い。 大隅は”酵母は理想的なモデル生物”と述べている。これは本当だろうか? この問題を議…

鳥インフルエンザ、核軍縮

”鳥インフルエンザ、核軍縮”とは何だ?と思われるかもしれないが、最近のサイエンスに出た紹介記事から北極圏の重要性に思い至ったので書いてみる。キーワードは北極。 この記事では家禽の強毒A型インフルエンザ(H5N8)の流行の世界的拡大に対するFAOの見解…

サラセミアの克服に向けて:Stuart Orkinの挑戦

9月30日、Dana Farber Cancer Institute(Boston, MA)のStuart Orkinの講演を聴いた。(モタモタしている間に一ヶ月ほど経ってしまった。その間シンポジウム、小旅行、シン・ゴジラとかいろいろあった。)Orkinは血液学の大家だ。今回の講演は、サラセミア…

酵母をめぐる冒険

最近のCellに、"Domestication and Divergence of Sacharomyces cerevisiae Beer Yeats"という論文が出た。直訳すると”ビール酵母Sacharomyces cerevisiaeの家畜化と多様性”だが、要するに世界の発酵産業で用いられている酵母の多数の菌株のゲノム配列を解析…

ZIKAウイルスの病原性を担う低分子RNA、sfRNA

今日はコロラド大学(University of Colorado)のJefferey Kieftという人の講演を聴いた。構造生物学は苦手なので初めは気が進まなかったが実際は面白い話だった。 トピックはフラビウイルス属のRNAが病原性を発揮するのに必要な構造を明らかにしたという話…

トウモロコシを持ち出そうとして有罪判決を受けた中国人研究者

サイエンス最新号に"Chinese scientist jailed over theft of hybrid corn"と題する記事が出ている。この事件に関して、いくつかの観点から論じてみたい。 ことの成り行きを要約すると以下のようになる。 中国人のバイオ研究者が米国企業で開発されたハイブ…

マストドンサイト

ミズーリ州セントルイス南郊の丘陵地にマストドンサイトがある。この一帯は19世紀初めころからマストドンを初めとする様々な絶滅動物の骨が発見された場所だ。アメリカマストドン(Mammut americanum)は北中米に生息していた 長鼻目の動物、要するにゾウの…

がんを巡るエピジェネティクス

先週私のいる病院で開催されたシンポジウムのテーマがEpigeneticsであった。 エピジェネティクスは生命科学の中心にある エピジェネティクスというのはたいへん大きな領域だ。そもそもDNAレベルのマーキング、ヒストンレベルのマーキング、それに非コードRNA…

健常ヒト胎児のゲノムエディティング

ノーベル賞のお膝元のスウェーデン、カロリンスカ研究所発のニュースが二つ。両方とも良くない方のニュースに分類されるかとも思うが(?)、それぞれの”予後”は相当異なる。 最初のニュースはノーベル医学生理学賞の選考委員会のあるカロリンスカ研究所(KI…