メンフィスにて

主に生命科学と社会について考える

ジーン・ドライブは世界を救うか?(続き)

(前回からの続き) Nature誌のgene-driveに関する5つの以下の疑問とそれらへの答えをみていこう。 1.そもそもGene driveは有効に働くのか? Gene driveによって有害昆虫を撲滅(または無害化)するということは生態系に対する挑戦である。野外では人の作…

ジーン・ドライブは世界を救うか?

もう4年も前になるが、gene drive(ジーン・ドライブ)という技術に関する記事を挙げておいた。最近のNature誌にこのgene driveのその後の展開に関する記事が載ったので紹介したい。 最初にこの技術について原理をを簡単に要約する。 CRSPR/Cas9によるゲノ…

デニソヴァ人:アミノ酸配列を手掛かりにする

Paleoproteomics(古タンパク学?)の話。 進化という現象に多少の興味があるのでこのブログでも進化関する記事は比較的多く書いてきた。 これまで私が書いた題材の中で最も印象的だったのは、Svante Pääboらによる”ネアンデルタール人のゲノム配列の決定”と…

生物多様性の話題(2):新種探索のコンソーシアム

現在は第6大絶滅の真っ最中である。人類が”生物は絶滅する”ことを発見してから僅か200年余り、この絶滅の勢いは人類が絶滅する以外止めるすべはおそらくない。毎年多くの種が新たに発見されてるが、それを上回る数の生物種が絶滅している。 DNA塩基配列に基…

生物多様性の話題(1):シカゴのフィールドミュージアム

先週シカゴに滞在した際、かねて行きたいと思っていたフィールドミュージアム(Field Museum of Natural History)を訪れた。米国最大級の博物館だ(注)。ミシガン湖に面したシカゴダウンタウンの最南端を固めるように立地している。その巨大なギリシャ・ロ…

平成の終りを飾る上野千鶴子の”祝辞”

あまりにも多くの人々が論評している例の件だ。私が一万キロ東から常々感じていたことを書いてみる。(但し、私は政治学者でもなく、社会学者でもないので、かなり変なことを書いてしまうかもしれない。) このブログのテーマである”主に生命科学と社会を考…

ワクチンが効くのは何年?

これはとてもは大事なことだが、あまりホントのことは知らされていない(注)。 Scienceサイトの4月18日付のニュース記事にこれに対する答えが書いてある。公開記事なので、興味のある方は読まれると良い。 結論を言うと細菌毒素の3種混合、これは破傷風、…

"Reverse global vaccine dissent"

Science誌最新号の巻頭言のタイトルである。”反ワクチン主義を押し戻せ”とでも訳せるか。著者はHeidi LarsonとWilliam Schultz。ともにLondon School of Hygiene and Tropical Medicineの所属で、前者は教授、後者は大学院生。 以下、私なりの翻訳(要約、意…

ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」

日刊工業新聞のサイトに”ミツバチ殺さぬ「殺虫剤」を導き出したAIの貢献度”という短い記事が出ている。あまりに短いのでこの住友化学の試みがどのようなものかは今ひとつ定かではない。 先に昨年11月にScience誌に出された同号に出た研究論文の紹介記事を挙…

サンタ・アニタ競馬場、ナカタニ騎手

競馬好きの人には馴染みのある名前だと思うが、サンタ・アニタ(Santa Anita Park)はロサンゼルス近郊にある名門競馬場だ。 3月29日のScience誌のニュース欄に"Wave of horse deaths on famed racetrack poses puzzle"という記事が出た。”名門校競馬場での…

シドニー・ブレンナーのこと

シドニー・ブレンナー(Sydney Brenner, 1,927-2,019)が亡くなった。 シドニー・ブレンナーと会ったのは1,996年のこと。当時私は東京の大学に勤務していたが、ブレンナーがカリフォルニア(サン・ディエゴ)に新しい研究所を作ったと聞いて、手紙を書いたの…

感染を促進する抗体の正体

これに関連する記事は二年前にも書いた。 ジカ熱流行の衝撃 ここ数年世界で問題となった感染症に、エボラ出血熱とジカ熱がある。エボラの場合、感染力、致死性が共にきわめて高く、流行を封じ込めることの重要性に議論の余地はない。一方、ジカ熱自体は致死…

免疫チェックポイント療法の影

本ブログでも以前紹介したが、免疫チェックポイント療法の影の部分について議論が活発化している。これはScience誌のニュースに掲載されたもの。 免疫チェックポイント療法は既に一般に広く知られている。無論これには2,018年の本庶佑のノーベル医学・生理学…

”神経芽種のメカニズムによる分類” 要約と雑感(自然退縮、スクリーニング、福島)【1】

先週号のScienceに”A mechanistic classification of clinical phenotypes in neuroblastoma”と題する論文が出た。これはドイツのケルン大学を中心とした欧州のグループによるものだ。 まず神経芽腫の概観。 神経芽腫(neuroblastoma)は小児においては脳腫…

モンサント襲撃

サイエンス誌のニュース記事によると、先週初めイースターの夜(16日)にイタリア(Olmeneta, Italy)にあるモンサントの研究施設が襲撃された。この場所は北イタリアのクレモナの近く。 襲撃は火炎瓶によるもので、試験用の種子が貯蔵されている低温施設が…

”画期的な”研究費配分新方式?

米国と欧州の二人の研究者が研究費配分の新方式を提唱している。 今や欧州でも米国でも、研究者にとって研究費獲得はたいへんな重荷だ。米NIHグラントの採択率は、2,003年の30%から2,016年の19.1%にまで低下している。欧州でも若手研究者の研究開始のため…

NIH予算は予期しない経済効果をもたらす?

しばらく前に2,018年度のトランプ科学予算について書いた。その際NIHグラントが経済に及ぼす”多少の”寄与について私見を述べた。基礎研究に対する公的資金の投入はどの程度の経済効果をもたらすのだろうか? 昨年ノーベル医学生理学賞を受けた大隅良典のオー…

免疫チェックポイント療法ががんを増悪させるケース

最新号ネイチャーに抗PD−1療法ががんの進行を速めるケースのあることが紹介されている。これでは最近Clinical Caner Researchに発表された二つの論文の内容が述べられる[1, 2]。 免疫チェックポイント療法は全体の20%程の患者に対して著効を示し、がんを"治…

ジカとデング、交叉免疫

フラビウイルス属ウイルスによる感染症は潜行と浮上を繰り返してきた。ごく最近の大きな問題はジカ熱だ。さらに少し前に日本で問題となったのはデング熱だ。 このウイルス群の研究は黄熱以来の長い歴史があって、感染様式、病理発生、免疫・感染防御など、重…

NIH予算の削減

トランプが科学予算の原案を出してきたが、今のところは大統領が勝手に提案しているところで、これからの議会とのやり取りの後に最終的な形をとることになる。 NIH予算について3月29日に、議会公聴会でトム・プライス(Tom Price)保健福祉長官が議員らの質…

テロメア維持の機構(7):ALT細胞のテロメアではBIRが起こっている

(前回から続く) 前回はヒト細胞でBIR(break-induced replication)と呼ばれるHRの一形態が実際に働いていることを述べた。そこでBIRの様子を図示したので再び参照されたい。 超絶FISHによるBIRの検出 このBIRがテロメラーゼ非依存性テロメア維持(ALT)で…

トランプ科学予算の概要

トランプ大統領の予算案の概要が明らかとなった。この2,018年度予算は来年の10月から開始されるもので、議会は今年末までこの予算案の可決はしない方針というが、とりあえずそこでの科学関連予算についてまとめておく。 一つ大きな原則があるが、それは地球…

テロメア維持の機構:(6)ALT細胞のテロメアの組み換えメカニズム、BIR?

(だいぶ間が開いたが前回より続く) テロメアの話を進める。このシリーズの最初に述べたことを思い出したい。 ”がんで認められるテロメア維持の機構(telomere maintenance mechanisms, TMM)が確定したようなのでまとめたい。”と私は書いている。これは昨…

21世紀の麻疹

先週ジョンズ・ホプキンス大学のDiane Griffinの講演があった。タイトルは”Understanding Measles in the 21th Century”だ。 話は1,846年のフェロー諸島での観察記録から始まった。Peter Panumという医師がこの諸島での麻疹(measles)の発生を注意深く観察…

言語と生物種

先週ケニヤ人が加わった。これで研究部の中にスワヒリ語話者が3人になった。国名でいうとケニヤとルワンダだ。この人たちは皆自分のことをスワヒリ語を話すというが、お互いのスワヒリ語は相当違うという。 同じ階にはたくさんのインド人も働いている。しか…

まずは一安心か?:H7N9トリインフルエンザ

前日のトリインフルエンザの続報がUSDA APHISサイトに出た。 全ゲノム配列を決定した結果、このウイルスはH7N9と同定された。しかし中国でヒトへの感染を起こしている系統とは異なり、北米の野鳥に生息している系統であることがわかった。中国から北極経由…

米国での新型トリインフルエンザ(H7N?)の発生

本日、テネシー州の養鶏場でトリインフルエンザが発生し、約7万4千羽が処分されたというニュースが流された。APHIS(農務省の動植物防疫部門)のページに過不足ない記事が出ている。 この養鶏場はテネシー州南部リンカン郡に所在し、大手食肉流通のタイソン…

ZIKAウイルスのmRNAワクチン:小頭症が防げるか?

予想した通り、ZIKAウイルス(ZIKV)に対するmRNAワクチンの論文がCell最新号に上がってきた。 核酸ワクチンの利点については既に広く認識されている。Cell最新号にZIKVの感染防御抗原をコードする遺伝子をmRNAしたワクチンが、ワシントン大学(Washington U…

ヒト胚エディティングへの”黄信号”

米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)と米国医学研究所(National Academy of Medicine)は、後の世代に伝わるようなゲノムエディティングについて、将来的には認めるという結論を出した。2,015年の暮れに召集された2,015ワシントンサミット…

Gene driveの無力化

Gene driveはエディティングから派生した技術で、その遺伝子を持った個体から生まれた仔の全て(100%)が導入された遺伝子を持つようにデザインされた方法だ。その概略は以前本ブログで模式図とともに概説した。これはわずか一年ちょっと前のことだ。 私は…